循環器疾患

体液貯留:浮腫の意外な原因

  足のむくみ(浮腫)は血管周囲のスペース(間質)に体内の水分が漏れることで生じる症状です。頻度が高く対応が必要な原因としては心不全や腎疾患、肝硬変、甲状腺機能低下症があり、まずこれらの鑑別が必須です。片足だけの浮腫は静脈・リンパの循環障害なども考慮する必要があります。浮腫の鑑別疾患はまれな病態も含めると多数にわたります。

比較的頻度が高く、見落とされがちなのが良く処方される降圧薬であるカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピンなど)による薬剤性浮腫です。血管を拡張することで血圧を下げる薬剤なのですが、特徴として末梢組織の出口血管(静脈)よりも入口(動脈)を強く拡げる作用があるため、末梢組織で血液が渋滞し水分が血管内から間質へ漏れ出すことで浮腫が生じると考えられています。カルシウム拮抗薬による末梢性浮腫は内科医師にも気づかれていないことがあり、要な利尿薬を増やされたり、厳しすぎる減塩療法を指導されたりと、必要以上の治療を受けておられる方もいます。実際にカナダの研究で”新規にカルシウム拮抗薬を処方されるとその後に利尿薬の追加処方が増えやすくなる”との観察研究データもあります1)。薬に対して薬が増えてしまうわけですね(処方カスケード:処方のドミノ倒しといわれています)。


薬剤性浮腫は肝臓の代謝酵素の個人差で生じやすい方がいると考えられています2)

 日常の診療で事前に予測することは困難ですが、以下の項目に当てはまるなら薬剤の影響かもしれません。

カルシウム拮抗薬を高用量(最大量の50%以上)で服用している。3)

普段運動が少なく浮腫は足の甲に生じる。典型的には車いす生活など介護を受けている方などに多い。

明らかな心不全や腎疾患は指摘されていない。

カルシウム拮抗薬は降圧効果が確実で副作用が少なく、球種でいればフォーシームストレート、ゴルフならドライバー、シューティングゲームならノーマルショットのように汎用性が高く、私自身も一番処方しているのではないかと思います。“カルシウム拮抗薬のなかでも末梢性浮腫を起こしにくいものに変える”、“他の降圧薬と組み合わせてカルシウム拮抗薬の高用量を避ける”などである程度対策が可能です4。引き算が重要ということですね。

良く使用される薬剤であればこそ、その特性をしっかり医療者が理解することが重要と考えます。自身やご家族で気になることがあればご相談ください。

1JAMA Intern Med. 2020 May 1;180(5):643-651

2Pharmgenomics Pers Med. 2021 Feb 2:14:189-197.

3J Hypertens. 2011 Jul;29(7):1270-80.

4Am J Med. 2011 Feb;124(2):128-35.

心不全:安定した時期も油断せず管理しましょう

 心臓は全身に血液を送り出すポンプで最も重要な臓器です。何らかの原因によりこのポンプの働きが弱まり、全身に十分な血液を送り出せなくなってしまった状態のことを心不全といいます。症状としては肺に水が溜まって息苦しくなったり、全身への心拍出が保てなくなる循環不全などがあります。適切に対処しないと命に係わる病態です。

 心不全は急性(新規発症)、慢性(既知)で分けられます。慢性心不全では長期間にわたり心臓に一定の負担がかかる間に体が慣れて何とか日常生活が過ごせている時期があり、代償性心不全といいます。しかし、この安定した状態から急激にバランスが崩れて症状が悪化することがあり、これを急性非代償性心不全や急性増悪(ぞうあく:重箱読みですね)と呼びます 。なお、字面がよく似ていますが憎悪(ぞうお)ではありません。増悪時には激烈な症状がおこるため、病院での入院治療が必要になります。

 心不全は、心基礎疾患があることを背景として生じます。例えば虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、心筋症といった病気です。

 比較的若い患者さんで入院が必要になる方は、急性の心筋梗塞や高度の心機能低下など心臓疾患自体が重篤であることが多いといえます。緊急性も高く待ったなしの病態です。

   一方で高齢の方で長期間の高血圧にさらされた高血圧性心疾患の方では、普段は心臓はそこまで悪くない(=超音波検査で心臓の収縮能力は保たれている)のに急性非代償性心不全を繰り返す方もいらっしゃいます。

(心不全診療ガイドライン2025、日本循環器学会/日本心不全学会)

  高齢の方は、病態の悪化に心臓以外の全身状態の影響を受けます。例えば風邪や尿路感染症などの感染症、貧血や低酸素、頻脈発作、血圧高値の持続、腎不全や糖尿病に伴う塩分・体液過剰などがきっかけになります。昔見た低心機能の患者さんでは胃カメラを行ったストレスで直後に悪化した人もいました。若いであれば大きな問題にならない刺激であっても、心臓の予備能力が低い高齢者の方にとっては発症の契機となってしまいます。

 ひとたび心不全の急性増悪を起こすと、患者さんは命の危機にさらされて大変苦しい思いをします。幸い命は助かったとしても、長期間の入院によって日常生活の体力はガクッと低下し、上記の心不全ステージのよう繰り返すことで少しずつ寿命を縮めることにつながってしまいます 。

  急性期には循環器専門医や心臓外科医による心臓そのものに対する専門治療を要します。しかし増悪因子についてひとつひとつを多忙な循環器医だけで管理するのは大変です。患者さん自身も感染や浮腫の変化に気を付けてもらいつつ、かかりつけ医で、血圧や心電図、貧血の定期的なチェック、塩分管理、そしてお薬の調整、感染対策を根気よく続けることが重要です。

 最近は心臓を保護するような優れた治療薬もあります。専門医のアドバイス、ガイドラインに従っていかに急性非代償性心不全(急性増悪)を起こさないかを心掛けています。

神経疾患

脳梗塞: 予防のための知識

  脳梗塞は、脳の血管が詰まって酸素や栄養が届かなくなる病気です。日本人は昔は脳出血(血管が破れる)方が多かったのですが、近年は脳梗塞の方が増加しています。

  ひとくちに脳梗塞と言っても、どのように血管が詰まったかによって大きく3つのタイプに分類されます。どのタイプかによって再発防止のアプローチや注意すべき点が異なるため、もしご両親やご親族に脳梗塞を経験された方がいる場合、そのタイプを知ることは、ご自身の将来の予防において非常に重要な手がかりとなります。脳梗塞の3つのタイプとその特徴、予防策について分かりやすく解説します。

①ラクナ梗塞:比較的軽症

  ラクナ梗塞は、脳の奥深くにあるごく細い血管が詰まるタイプです。ラクナとはラテン語で「小さな水たまり」という意味で、文字通り小さな梗塞(数ミリ〜1.5センチ程度)が起こります。

〇メカニズム: 長年の間血圧が高いとと指摘されていた高齢の皆さんに多いです。水道の細いホースにずっと高い圧力がかかると傷んでしまうように、脳の細い血管が高血圧によって分厚く、硬くなり、最終的に完全に潰れて血流が途絶えてしまいます。

〇例: メインの国道ではなく、住宅街の「細い路地」が老朽化や小さな障害物で通れなくなってしまった状態です。

〇特徴: ダメージの範囲が小さいため、時には自覚症状がないこともあります。症状が出ても片側の軽い麻痺などにとどまることが多いですが、何度も繰り返すと認知症や歩行障害につながるため油断は禁物です。

→ 血液をサラサラにする抗血小板薬なども用いられますが、何よりも徹底した血圧管理が重要です。

②アテローム血栓性脳梗塞:中等症だが全身の動脈硬化のリスクは高い

  アテローム血栓性脳梗塞は、脳内動脈や頸動脈に50%以上の狭窄があるところにプラークや血栓が詰まるタイプです。

〇メカニズム: 原因は動脈硬化です。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などによって血管の壁にコレステロールプラークがたまります。これが徐々に血管を狭くし、ある日プラークの表面が破れると、血栓が急激に作られ、その先の血管を塞いでしまいます。

〇例: 太い幹線道路の壁に長年ゴミが溜まって車線が狭くなっていたところ、急に崖崩れが起きて道路が完全に塞がってしまった状態です。

〇特徴: 寝ている間など安静時にじわじわと進行することが多くBAD型(分枝粥腫病型)では、数日かけて症状が段階的に重くなることがあります。ラクナ梗塞に比べると、麻痺や構語困難などの症状が強いです。この病型の方は、心臓の血管にも同様の現象が起こっており、狭心症や心筋梗塞を起こすリスクが高いため、心臓を含めた症状に注意が必要です。
高血圧だけでなく、LDL(悪玉)コレステロールの管理や禁煙が必須です。
特にLDLコレステロール値は家族歴が強く関与するため、ご家族にこのタイプの方がいる場合は早期からの脂質管理が推奨されます。
なお、このタイプの方は脳を栄養する血管が狭くなっているため、高血圧治療の際に過降圧を避けるなどの配慮が必要です。

③心原性脳塞栓症:重症

   心原性(しんげんせい)脳塞栓症は、脳の血管そのものに問題があるのではなく、心臓でできた血の塊が脳まで流れてきて太い血管がスポッと詰まるタイプです。

〇メカニズム: 最も多い原因は心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈です。心臓が不規則に小刻みに震えるため、心臓の中で血液がよどみ、大きな血栓ができてしまいます。その塊が心臓から送り出され、太い血流に乗って脳の血管にたどり着いた瞬間に、見事に血管を塞いでしまいます。

〇例: 道路自体はキレイなのに、遠くの上流から大きな岩が流れてきて、一瞬にして道路を完全に通行止めにしてしまった状態です。

〇特徴: 前触れもなく、突然激しい症状(強い麻痺、意識障害、失語症など)が現れます。3つのタイプの中で最も重症化しやすく、命に関わるケースや重い後遺症が残るリスクが高いのが特徴です。

動悸の症状がある場合や、無症状でも高齢の方は健診などで心電図検査は定期的に受けることが望ましいです。
→心房細動が続いている場合は、抗凝固薬(出血の副作用リスクもありますが)を開始する必要があります。
近年予防・治療が進歩している領域で、心房細動に対しては近年カテーテルアブレーションや左心耳閉鎖術といったデバイス治療を行うことが可能となり、抗凝固薬を中止できるようになる可能性もあります。また発症しても24時間以内の血管内治療で血栓を回収して社会復帰することができるようになっています。

予防のために大切なこと: 危険因子と、ご両親や兄弟が脳梗塞をされた方はどの病型かを知っておきましょう。

  このように、脳梗塞のタイプにより注意すべき基礎疾患へのアプローチは微妙に異なります。

  ラクナ             → 高血圧の管理
  アテローム       → 血圧管理・脂質管理、禁煙+抗血小板薬
  塞栓(心原性) →心房細動の早期発見(+先進デバイス治療)+抗凝固薬

 どのタイプにも共通して言えるのは、早期発見・早期治療が生死や後遺症の有無を分けるということです。
 
 もし、ご自身や身の回りの方で上記の基礎疾患がある場合、「突然、片方の手足に力が入らない」「言葉がうまく出ない」「顔の半分がゆがむ」といった症状が少しでも現れた場合は、ためらわずに救急車を要請して医療機関を受診してください。

消化器疾患

  嘔吐下痢、便秘、腹痛などの症状に対して初期対応を行います。

 超音波検査は診察室で適宜行い、高次病院に対するべき病態であるかを判断します。症状のあるものの多くは数日の経過で改善することが多いです。ただし、超音波検査は、空気やガスがある臓器はしっかりと見えにくいという性質があり、、消化管疾患(胃、食道、十二指腸、小腸、大腸)の病気に関しては、内視鏡検査が必要になることがあります。
 
 内視鏡検査は当院では対応しておりませんが、病態に応じて近隣のクリニック、病院へ紹介させていただいています。
  急性腹症(症状が強く、外科治療が必要な可能性のある病態)については、血液検査を参考に速やかに高次機関へ相談して、CTなどより詳しい検査を受けていただくようにしています。

MASLD(マッスルディ、マスルド):リスクの高い脂肪肝でないか知っておきましょう

  肝臓(かんぞう)の病気といえばC型肝炎ウィルスによる肝硬変や肝がんが大きな課題でした。しかし、2010年代に優れた治療薬が登場しC型肝炎は治癒が期待できる時代となりました。その結果、相対的に目立つようになってきたのが脂肪肝です。
 脂肪肝とは、肝臓の細胞に中性脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。従来は大きく「アルコール性」と「非アルコール性(主に肥満)」の2つに分類されていました。その後、疾患の捉え方が見直され、2023年に国際的な合意に基づき、脂肪性肝疾患(SLD)と改称されました。

●所見と定義
飲酒量と代謝異常(①肥満ないし2型糖尿病、③正常体重でも高血圧症、高中性脂肪/低HDLコレステロール、内臓脂肪蓄積の2つ以上)によって以下のように細分化されています。

MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患) 
 アルコール摂取量が少ないSLDで(1日あたりのエタノール換算で男性30g/日以下、女性20g/日以下※)代謝異常に重点を置いています。

MetALD(代謝機能障害アルコール関連肝疾患) 
 代謝異常のあるSLDで、かつアルコール摂取量が中等度です(エタノール換算で男性30~60g/日、女性20~50g/日)。MASLDより肝がんのリスクがより高くなると考えられています。

ALD(アルコール関連肝疾患) 
 上記を超えるアルコール常用者に見られる脂肪性肝疾患はALD(Alcoholic Liver Disease)と呼ばれます。

 ※おおむねエタノール15gは缶ビール350mlに相当します。
呼び方が細かくてややこしいですね…。専門外の私もそう思います。

 しかし医学の世界では、これまで混乱しやすかった概念を整理・再定義し、今後のより良い研究や治療に生かすために、どの領域でもこうした名称変更がたびたび行われています。

●治療
 いくつか有望な治療薬の候補はあるようですが、現時点ではMASLDを直接改善する薬剤はありません。合併する高血圧、高中性脂肪/低HDLコレステロール、2型糖尿病などの治療や、運動・減量・減酒が治療の要となります。また、遺伝的にMASLDから肝がんへ進展しやすい方も一定数いるとされています。

●肝臓専門医への受診の目安
 男性は内臓脂肪が蓄積しやすく、見た目にはそれほど肥満がなくても超音波検査などでSLDの所見を認めることが少なくありません。SLDの患者さんは非常に多いため、すべての人を直ちに肝臓専門医に紹介することは難しいのが現状です。

 MASLDはC型肝炎ほど肝硬変、肝がんになりやすいわけではありませんが、リスクの高いケースを見極めるために、年齢、AST、ALT、血小板数から算出するFIB-4 indexなどのスコアをもとに判断します。

 検診でASTやALTが30を超えており血小板数が少ないケースは、肝臓の線維化(肝硬変への進展)が進行している可能性があり注意が必要で、専門医の受診をお勧めしています。

J Hepatol 2023; 79 (6): 1542-1556.

Hepatol Res. 2021 Oct;51(10):1013-102


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