高血圧症

 高血圧症は、持続的に血圧が上昇する病態で、その結果、心臓、眼底、脳、大動脈、腎臓など種々の循環器臓器に障害を起こします。厳密にいえば病気というよりは、病気の前段階となる症候群であり、多くの場合、自覚症状がほとんどないままに進行します。しかし放置しておくと、動脈硬化が進行して血栓症(脳梗塞、心筋梗塞)や血管の破綻による大出血(脳出血、大動解離・破裂)、臓器血流の低下(高血圧や弁膜症による心不全、腎不全、末梢動脈疾患)など命に関わる疾患を、人生の後半時期において引き起こします。

 皆さんの状態にもよりますが、おおむね血圧130/80mmHg以下になるように管理することが望ましいと考えられています。勤労世代の血圧上昇には精神的なストレス・運動不足やアルコールの摂りすぎはリスク要因になります。一方で高齢者の一部の方はあまり下げすぎないなどの配慮も必要です。また、他の疾患で服用している薬剤による血圧上昇や、睡眠時無呼吸の治療や外科手術を行うことで完治する二次性高血圧症もあり、高血圧症はありふれてはいますが奥の深い診療でもあります。

 院長が日本高血圧学会の専門医として関心のある分野でありますので、病態に応じて適切な降圧目標を設定し最小限の投薬での治療を心掛けます。

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高血圧について初めて指摘された皆さんに

高血圧症:どれくらいで受診が必要ですか?

 血圧測定計で血圧を測ると、上の血圧(収縮期血圧)、下の血圧(拡張期血圧)、脈拍が表示されます。

 日本高血圧学会では、病院や検診で測定した診察室血圧140/90mmHg以上、リラックス状態で測定した家庭血圧で135/85mmHg以上を高血圧と定めています。

 なお正常血圧は120/80mmHg以下(家庭血圧115/75mmHg)です。

 ある値を境として急に正常血圧から高血圧に急に変わるのではなく、その間の血圧は、正常高値血圧(120-129/<80)、高値血圧(130-139/80-89)と定義されています。いわば高血圧予備軍といった位置づけです。


 この基準に当てはめると、高血圧症の方は日本で4300万人、そのうち良好な管理ができている方は1200万人で残りは管理できていない、あるいは未治療者やそもそも自覚がない方が3100万人いると推定されています。

 これだけだと厳しすぎる感じられる方もおられるでしょうが、さまざまな疫学所見からは120/80 mmHgを超えて血圧が高くなるほど、脳卒中、冠動脈疾患、慢性腎臓病、心不全、心房細動、認知症などの罹患リスクおよび死亡リスクは上昇するというデータがあります。とくに上記のデータのように40-64歳の方は高齢の方に比べて血圧が高ければより脳血管病を発症しやすくなることが顕著です。

 もちろん健康診断で140/90mmHgあったからといってあわてて医療機関を受診する必要はありません。数日間自宅で測定してみること、血圧計を持っていないなら家電売り場やスポーツジムでリラックスした状態で測ってみて、135/85mmHg以上が続く場合に医療機関に相談してみてください。

 ただし、下の血圧(拡張期血圧)が100㎜Hgを超えているようなら、高血圧緊急症といってすみやかな治療が必要となる可能性がありますので早い段階で受診が望ましいです。


参考資料:日本高血圧学会ガイドライン2025

高血圧症:下の血圧だけが高いといわれた中高年の皆さんに

血圧は上下の血圧があり、上の血圧を収縮期血圧、下の血圧を拡張期血圧と呼びます。心臓がギュッと縮んで血液を動脈に送り出すときの血管にかかる圧力が収縮期血圧、その後心臓が緩みながら次の拍出のため血液をためているときの圧力が拡張期血圧です。高血圧は140/90mmHgと定義されていますが、治療のきっかけとなるのも収縮期血圧が高いことであると思います。しかし、若い世代の方にとっては拡張期血圧だけ高いといわれている方もいらっしゃるのではないでしょうか?拡張期血圧の上昇は高血圧症の初期のサインとして大事です。

<上下の血圧が変化するメカニズム>

①高血圧なし(例:120/75㎜Hg ) 

健康な若い人の血管は、ゴムホースのようにしなやかです。心臓が血液を送り出すとき、血管が適度なクッションとなり圧力を吸収し収縮期血圧は上がりません。心臓が緩んでいる間も、血管のしなやかさによって血液を全身へスムーズに送り届け、適切な拡張期血圧が保たれています。

②高齢の高血圧(例:150/60㎜Hg )

高齢の方は加齢、高血圧・脂質異常症の暴露、喫煙によって、大動脈などの太い血管が硬くなり弾力性を失います(動脈硬化)。硬い血管では心臓から送り出される血液の圧力を吸収できないため、ダイレクトに血管壁へ強い圧力がかかり収縮期血圧が高くなります。一方で血管の柔軟さがなくなっているため、心臓が休んでいるときに血液を押し出すサポートができなくなり、血管内圧が急激に下がります。そのため、拡張期血圧が維持できず低くなる傾向にあります。結果として上下の血圧の差が開いてしまいます。

③若年の高血圧(例:138/90㎜Hg)

大動脈のしなやかさは保たれていますが同世代の健康な方と比べ、動脈が収縮している状態にあったり、体液量が過剰で血管内ボリュームが高くなっています(血管抵抗の亢進)。この状態は心臓が緩んでいる拡張期でも動脈圧が高い状態にあり、若い人に多くみられる下の血圧だけが高い状態です。血管を収縮させるのは交感神経や、昇圧ホルモンの影響と考えられています。ストレスや不規則な生活スタイルなどによる自律神経の緊張状態、肥満、運動不足や過度のアルコールなど生活習慣の影響が主ですが、睡眠時無呼吸など二次性高血圧などが隠れていることもあります。体液ボリュームの過剰は主に塩分摂取の過剰や肥満などの影響です。そのうち収縮期血圧も上昇してきます。

<結局どのタイミングで治療が必要ですか?>

基本的に収縮期血圧は臓器のダメージとの相関が強く治療の指標とされています。このため拡張期血圧が高いだけのですぐ降圧薬が必要なわけではありません。

具体的に検診で拡張期血圧が85~90㎜Hg前後に上がってきたら生活習慣を見直しましょうリバーシブルな状態ですので服薬が必要にならないこともあります。それでも収縮期血圧が140㎜Hg を超えてくる場合に、医療機関での相談を考えていただくことでよいでしょう。肥満の改善が難しい、仕事はつらいがなかなか調整や転職はできないなどの事情のある方も思い切って薬物療法をお勧めします。


<受診、治療を迷っているみなさんに>

 10-20年単位で放置すると、動脈硬化が進行します。そうなると脳・心血管の病気を発症しやすくなることはもちろんですが、お歳をとってから血圧の変動も大きく転倒しやすくなる、認知機能低下のリスクも高まるなどのおそれがあります。

 外見の若さも大事ですが血管をしなやかに保てているかを意識してあなたの血圧を見直してみましょう。

①血管の老化を防ぐデータのある優れた降圧薬・高脂血症薬を

②国家資格者の助言・副作用チェックのもとに

③医療保険で安価に利用できる、

 とポジティブにとらえていただくとどうでしょうか。残りの人生が長い方ほどNISAやiDeCoよりも優先するべき投資といえるでしょう。

高血圧の治療中の方へ

高血圧症: inを減らすか(食塩制限)outを増やすか(降圧利尿薬)?

 私たちの摂取する食物は、炭素を含む有機物からなっています。唯一の例外である、無機物からなる食材は食塩(塩化ナトリウム)です。生体内では水分と塩分(ナトリウム)は原則として連動しますので、塩分が不足すると脱水になり、過剰になると浮腫になります。このため適正な塩分量は適正な体液ボリュームの維持につながります。

 生物が海から陸上に上がり生活圏を広げていく過程において、体液の蒸発を防ぐため皮膚を発達させるとともに、腸管や腎臓で水と塩分を保持することが重要でした。自然岩塩などが析出する場所は豊富にあるわけではないため、ごく少量の食塩でも生命を維持できるような個体が生き残ってきたといえます。体重60kgあたりの1日の食塩相当量としては、草食動物で0.5g/日、肉食動物でも2g/日程度とされており、狩猟採集時代の人類の摂取量も1〜3g/日程度であったと言われています。現在でも伝統的な食事を続けているブラジル・アマゾンのヤノマミ族や北極圏のイヌイット族などでは、高齢でも高血圧にならないそうです。


 冷蔵庫がなく塩蔵品が多く、和食主体であった日本の食卓は食塩摂取量が非常に多く、昭和40年代までは1日所要量は15g/日とされていました。当時は高血圧性の脳内出血が多かったと考えられています。その後、昭和54年以降に適正摂取量として10g/日の上限が設定されました。そして現在では、さまざまな臨床試験の結果を踏まえ、より厳し1日6g未満が目標とされています。それでも長い人類の歴史からみれば、食塩の摂取過剰に相当します。飽食の現代では、食塩の過剰摂取は体液量増加や交感神経刺激を通して血圧や心不全を悪化させると考えられており、食事療法の基本は減塩です。実際にいわゆる”寝たきり”となり完全に経管栄養や静脈栄養(食塩相当で2-3g/日前後のみ)になると、もともと高血圧の既往のある方でも、血圧は自然に下がり降圧薬が不要になります。

 食塩で血圧が上がりやすい方を食塩感受性、上がりにくい方を非感受性と言います。厳密に区別することは難しいのですが高齢になると概ね食塩感受性は高くなるといわれています。


 減塩についての意識も向上しており日本人の塩分摂取量は10g/日といわれていますが、まじめ減塩に取り組んでいる方であっても、日々の食事で減塩食6g/日未満の達成は容易ではありません。重度の心不全や人工透析を要する進行した腎不全患者さんでは、管理栄養士の指導のもとしっかりとした減塩食が必要です。

 しかしそこまで臓器障害のない、大多数を占める高血圧症の方がほとんどですので、できるだけ多くの方が無理なく減塩を実践していただくことが重要大事です。外食も塩分表記を意識する、減塩調味料なども利用し出汁や酸味・香辛料を効かせて味にメリハリをつける、カリウムをしっかり摂取する(ナトカリ比参照)など、小さな工夫から始めることが大事です。

 

  入ってくる食塩のinを減らすことが原則ですが、もう一つの手段としては薬剤を用いて出ていくoutを増やすやり方があります。特に腎機能が低下して排泄する能力が低下していたり、肥満・糖尿病を合併する食塩感受性が高いと予想されるケースでは降圧利尿薬(サイアザイド系利尿薬)が有効なことがあります”なかなか下がらなかったけど、これを飲んだら下がりました!”と言ってくださるくらいに有効な薬剤です。

 勤務医のころには血圧コントロールの難しい方の多い腎臓病専門外来でよく処方していましたが、開業すると軽症の高血圧患者さんが多いため、20人のうち1人に出すかどうかといったところです。日本高血圧学会のガイドラインでもこれらのサイアザイド系利尿薬は特別な位置づけの薬剤となっており、サイアザイド系利尿薬を含む3種類の降圧薬でも目標血圧に達しない場合、治療抵抗性高血圧症と定義します。


 利尿薬と聞くと夜間のトイレが心配になるかもしれませんが、基本的には朝に内服していただくなど調整しますので、夜間頻尿を過剰に心配する必要はありません。安価で歴史のある薬剤です。患者さんのタイプやライフスタイルに合わせて慎重に選択しておりますので、ご安心ください。



減塩のすべて 理論から実践まで   日本高血圧学会減塩委員会 2019.東京:南江堂

J Am Diet Assoc. 2010 May;110(5):736-45 より作図(左図)

高血圧症:続けやすい食事療法の工夫、ナトカリ比とは

<ナトリウムとカリウム>

 私たちの体は様々なミネラル(ナトリウム、カルシウム、カリウム、亜鉛、鉄…)の働きによって健康が保たれています。

  食塩の主要成分であるナトリウムは生命維持に必須の重要なミネラルですが、過剰摂取が高血圧によくないことは有名です。カリウムというミネラルも血圧において重要と考えられています。

 カリウムには、ナトリウムを腎臓から排出させる働きがあります。ナトリウム・カリウムはライバル同士で腎臓において隙あらばお互いを体から追い出そうとポジション争いをしていると思ってください。


<尿ナトカリ比>

  このナトリウムとカリウムの尿のバランスを調べたものが 尿ナトカリ比(尿中ナトリウム濃度/尿中カリウム濃度) です。この数値が低いほど、死亡1)や脳卒中2)などのリスクも低下することがわかっています。


<目指すべき数値は?>

日本高血圧学会が推奨する理想の数値はナトカリ比2未満です。先史時代には塩は貴重品でナトリウムが少なく、木の実などでカリウムを多く摂取していた生活をしていたと考えられています。

私たちは今更は狩猟採集生活には戻れず、豊富に食塩が手に入る環境にいます。急に達成することは難しいかもしれませんが、ナトカリ比4未満をクリアすることから始めましょう3数値の変化を確認するのも励みになるかもしれません、医療機関で測定は可能です。


※利尿薬を飲んでいると解釈が不正確になることがあります。

<今日からできるナトカリ改善>

物価も上がっており、安価な加工食品に頼りたくなりますがひと手間加えて、「ていねいな暮らし」を実践することが大切です。ポイントは置き換えとプラス一品です。

〇ナトリウムを減らす: 食塩以外の調味料の活用、麺類の汁は残す、加工食品を減らす。

〇カリウムを足す:野菜(根菜や豆などに多いです)、海藻、果物、ナッツなどを一品プラスする。

これらを組み合わせることで、効率よくナトカリ比を下げることができます。なお、カリウムと協調して働くマグネシウムというミネラルも摂取が望ましいとされています。


<実践における注意点>

腎臓の働きが高度に低下した方は、カリウムの過剰摂取がかえって害になることもありますので、医師に相談したうえで実践しましょう。

 

ナトリウムを減らすこと、禁止することばかりを意識するばかりでは楽しみがありません。カリウムをしっかり摂取するというポジティブな気持ちを心がけてくださいね。

 

1) N Engl J Med 2014;371:612-623

2) Am J Kidney Dis. 2016 May 24;69(3):341–349

3) Hypertens Res. 2024 Dec;47(12):3288-3302.

高血圧症:深夜業務やシフトワークの影響

 夜勤を含むシフトワークの弊害は以前から知られており、深夜業務に従事する方には年2回の健康診断が義務づけられています。私も当直回数が多い救急病院に勤務していたころは血圧が高めになり、翌朝は緊張性頭痛に悩まされていました。急に起こされ睡眠サイクルを中断されたり、浅い仮眠しか取れなかったりする業務はある程度の年齢になると厳しくなります。

  医学的な研究でも、これらは裏付けられています。健康な18〜35歳の成人を対象にした研究では、たった一度の夜勤でも収縮期血圧が3mmHg上昇し、健常者で睡眠中に生じる血圧が日中より低下するDipping現象もみられにくくなるそうです¹)。また、強制的に被験者を昼夜逆転環境にした実験においても、シフトワーク群は非シフトワーク群と比較して睡眠中の血圧上昇や、炎症マーカーの上昇が見られたといわれています²)

 長期的な影響についても、複数の研究をまとめた報告で”シフトワークは喫煙や社会背景を考慮しても心筋梗塞のリスクを23%、虚血性脳卒中のリスクを5%増加させる”との報告があります³)。さらに、19万人の看護師を追跡した研究でも同様の結果が出ており、特に10年以上続けるとそのリスクは高まるようです⁴)

 インフラ管理、物流、医療福祉、警備、飲食・宿泊施設など深夜営業のお店など、人手不足の中50歳を過ぎても勤務されている方がいます。誰かが担わなければならない仕事があり、社会を支えてくださっている皆さんにリスペクトを抱いて社会を維持していきたいものです。

1Physiol Rep. 2025 Feb;13(3):e70231.

2Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Mar 8;113(10):E1402-11.

3BMJ. 2012 Jul 26:345:e4800.

4JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1726-34.

高血圧症:運転と循環器疾患

 休日の郊外のドライブはストレス解消になりますが、運転そのもの、とくに通勤での渋滞や長時間の運転業務は緊張を強いられるものです。実際に産業医学でも自動車の運転に係わる健康問題は研究のテーマです。

〇通勤形態による心疾患の発症リスク 
 自転車や徒歩での通勤者に比べ、自動車通勤者では冠動脈狭窄の有病率・石灰化スコアも高いことが示されました。これには、自動車通勤者における血圧高値、BMI高値、脂質プロファイルの悪化、糖尿病の多さなどが影響するものと推定されます1)。また、イギリスのデータベース研究では自動車通勤等のグループと比較して、自転車通勤は心血管疾患発症リスクを46%、すべての死亡リスクも41%低減させました。徒歩通勤でも心血管病の発症リスクが27%低下しています2)。観察研究なので、元気だからこそ自転車通勤や徒歩通勤ができている、という要因も否定はできませんが…。

〇渋滞がもたらす血圧への影響 
 レバノンで行われた研究では、交通渋滞にさらされたドライバーは、そうでないドライバーと比較して、平均収縮期血圧(142 mmHg vs 123 mmHg)および拡張期血圧(87 mmHg vs 78 mmHg)が高かったそうです3)。 また、通勤時のルートがドライバーに与える影響を調べた研究があります。予測不能な渋滞や停止が多いルートを運転したドライバーは、目的地に到着した後も収縮期・拡張期血圧がしばらく上昇するという持ち越し効果があることがわかっています4)

〇長時間運転・職業ドライバーのリスク
オーストラリアのデータ研究では、1日の運転時間が長くなるほど、肥満、睡眠不足、身体活動不足、精神的健康の悪化が増加しました。特に1日120分以上の運転は、これらの指標の悪化と最も強い相関を示しました5)。トラック、バス、タクシーなどの職業ドライバーとその他の労働者を比較した古典研究では、基礎疾患や喫煙状況などの要因を調整しても、職業ドライバーの急性心筋梗塞の発症リスクが1.1~1.49倍と高いことが一貫して示されています6)。座る時間が長いと、下肢の静脈血栓症などの懸念もあります。

〇大気汚染の影響
渋滞中は前方の車の排気ガスを吸い込みやすくなり、微小粒子状物質(PM2.5など)の濃度が車内で上昇します。これは、体内の酸化ストレスや炎症を引き起こし、呼吸器系のみならず循環器系にダメージを与える可能性があるそうです7,8)

 生活や仕事において自動車は欠かせないものですので、日常的な工夫を3つご紹介します。

1. あえて遠くに停める
   職場の駐車場やスーパーなどで、入口から少し離れた場所に車を停めてみましょう。1日数分でも歩く時間を増やすことが、貴重な全身運動になります。

2. 信号待ちでの深呼吸
   イライラしがちな渋滞や信号待ちでは、深呼吸により促す副交感神経を有意にしましょう。渋滞などのときはカーステレオもあまりアップテンポな音楽でない方がよいかもしれません。車両停止中でもスマートフォンの閲覧は厳禁ですね。

3. 空調を賢く活用する
   トンネル内や激しい渋滞時には、エアコンを内気循環に切り替えることで、外の汚れた空気の流入をある程度防ぐことができます。ただし、内気循環のままにしていると車内の二酸化炭素濃度が上がり、眠気や集中力低下の原因になります。渋滞を抜けたら外気導入に戻すことを忘れないようにしましょう。
  
  人を乗せたり、長距離荷物を運ぶ職業運転手さんは、危険作業員や外科医に匹敵するストレスを抱えていると思います。電気自動車の推進・自動運転などのイノベーションでドライバーのみなさんの健康が向上することに期待したいですね。

参考資料
1) Br J Sports Med. 2026 Feb 12;60(4):248-257
2) BMJ. 2017 Apr 19:357:j1456.
3) J Clin Hypertens (Greenwich). 2017 Dec;19(12):1366-1371
4) Am J Community Psychol. 1990 Apr;18(2):231-57.
5) PLoS One. 2014 Jun 9;9(6):e94602.
6) Epidemiology. 2003 May;14(3):333-9.
7) Circulation. 2010 Jun 1;121(21):2331-78.
8) Eur Heart J. 2018 Oct 7;39(38):3543-3550.

高血圧症:血圧が高くて不安なとき、どうすればいい?

 病院で当直をしていたころは、「いつもより血圧が高いんです」と不安になり、救急外来を受診される方がいらっしゃいました。多くの方は病院に来てスタッフの顔を見て安心すると、自然と血圧が落ち着くケースがほとんどでした。血圧が高い時に無理に動くと、かえって興奮して血圧が上がってしまいます。もしも、血圧が高いこと以外に症状がないのであれば、まずはご自宅でリラックスして休んでいただくのが一番の対処法です。


 ただし以下の症状がある場合は緊急事態の可能性があります。救急車を呼ぶか、至急医療機関へ向かうことも考えてください。

  • 下の血圧(拡張期血圧)が120mmHgを超えている
  • これまでに経験したことのない強い胸痛、背部痛、頭痛がある(血管の破裂などが疑われます)
  • 突然の意識障害、手足の麻痺、ろれつが回らない(脳卒中など中枢神経の症状)
  • 息苦しく、横になるより座っている方が楽(心不全による起座呼吸)

 血圧が高いと、心配性の方は気になって何度も測ってしまうかもしれません。しかし、その焦りがさらなる血圧上昇を招くこともあります。しかし、180/100mmHgまで上がったとしても、多くはすぐに正常値まで下げる必要はなく、逆に急激に下げることがかえって良くないこともあります。人体は機械ではないため、血圧は常に変動します。「血圧は変動するもの」と理解し、日頃からかかりつけ医とそれぞれの許容できる血圧(合併症のあるなしによって異なります)について、相談しておくことが大切です。 

特殊な高血圧症について

二次性高血圧症

多くの方は遺伝や加齢、生活習慣などの複雑な要因で発症する高血圧症(本態性高血圧)です。

一方で単一の病態で生じる高血圧(二次性高血圧)が5-10%存在するといわれています。本態性の治療は内服薬や生活習慣改善など対症療法ですが、二次性は若い間に要因を取り除くことで高血圧が完治する可能性がある病態です


<成人の方において二次性高血圧の原因となる主な病態>

内分泌性:血圧に関与するホルモンが過剰に分泌される病態です。原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、クッシング病などです。


● 腎性高血圧・腎血管性高血圧:尿蛋白を生じる腎疾患(腎炎)や腎臓の血管に狭窄があると血圧が上がりやすくなります。


睡眠時無呼吸症候群: 夜間の低酸素・交感神経の活性化によって治療抵抗性の高血圧を生じます。肥満のある患者さんに多いですが、慢性的な鼻閉やあごの小さい方にも生じている可能性があります。


● 薬剤性:内服中の薬剤による副作用をはじめ漢方・サプリメントも関与することがあります。


● 脳・中枢神経性:頸動脈の高度狭窄や脳の血圧を調節する部分の病変など



<二次性高血圧が疑われる方>
 初めて高血圧を指摘された方に検索をお勧めしています。また、すでに指摘されている方でも、以下に該当する方には二次性高高血圧の検査を強くお勧めしています。 

●若年で高血圧と診断(特に30歳未満)

60歳をすぎて急に血圧が高くなった

●3種類以上の降圧薬でも血圧が下がらない

●特定の症状(例:急激な体重増加、むくみ、動悸、多尿など)を伴う

<検査>                                                                             
 当院では血液検査、尿検査、心電図、超音波検査を行います。
一律にすべての検査を行うわけではなく診察によって決定しますが、内分泌性高血圧症のうち原発性アルドステロン症は頻度も高く、問診や診察だけでは否定できないので了承の得られた方には実施しています。診断が難しいケースは総合病院に精査をお願いします。

<治療>

 二次性高血圧症に対しては、その病態に対する治療を行います。例えば、腎炎であればその治療、内分泌性高血圧であれば腫瘍の切除や薬物治療、睡眠時無呼吸症候群であればCPAP療法(睡眠中に鼻から酸素、圧を送る治療)などが行われます。薬剤性であれば処方している医療機関に情報提供し減量できるものがないか相談します。

治療を急ぐ高血圧緊急症と切迫症

私たちは血圧が高いから最初から必ず降圧薬を処方するわけではありません。治療の選択肢を示し、患者さんの意向を尊重し方針を決定します。しかし例外的に緊急治療が必要な病態があります。高血圧緊急症・高血圧切迫症(重症高血圧)です1)


高血圧緊急症(直ちに入院治療が必要)脳・心臓・大動脈・網膜・腎臓などの重要な臓器に急性の臓器障害が生じている危険な状態です(図1参照)。

高血圧切迫症急性の臓器障害は起きていないものの、血圧が収縮期180mmHg/拡張期120mmHg以上などの著しい高値を持続している病態です。とくに拡張期血圧が高いことがポイントです。


高血圧緊急症については、集中治療室での治療が必要なこともあります。第二次世界大戦中のフランクリン・ルーズベルト米大統領も多くの政治的決断やヤルタ会談出席などで多忙を極め、収縮期血圧が300mmHgにも達し終戦を前に脳出血で亡くなったといわれています。当時は薬もなかったためですが、有効な降圧薬のある現代においても東京科学大学の研究では、切迫症に対して緊急症では死亡のリスクが1.57倍になるといわれています2)


少し難しい話になりますが、この著しい血圧上昇には、昇圧ホルモン(レニンやアンギオテンシン)と腎臓が関わっています。腎臓は血圧をモニターするセンサーであると同時に、レニンや自律神経系を介して血圧を上昇させるエフェクターでもあります。

切迫症においては、血管収縮状態が持続し腎臓を含む毛細血管も障害を受けます。相対的な血流低下のため腎臓のセンサーは血圧が低下したと勘違いし、さらに昇圧ホルモンを増やす方向に働いて血管を収縮させ血圧を上げようとする悪循環に陥ります(図2参照)。現在では、レニンやアンギオテンシンを阻害する薬を適切な時期に使用することでこの悪循環を抑制することが可能です。実際に海外のデータでは5年生存率が、1977年以前の32.0%から、これらの薬剤が利用できるようになった1997~2006年では91.0%へと著しく改善していま3)

 ご高齢の方は脳出血や心不全を合併した緊急症で救急車で搬送される方が多く明らかに重症感があります。一方で切迫症の方は歩いて受診される若い方もおられ、もともと血圧が高めの30-50歳の方が、過労や不眠などのストレスを抱えたり、自己判断で血圧の薬を中断したりすることで発症するイメージです私見ですが、若年者は高血圧のダメージに対して臓器の予備能力があり、ぎりぎりまで耐えることができてしまうためではないかと考えています。


 若い方の切迫症であっても、安全な水準まで血圧が下がるのを見届けるために入院していただくのがベターですが働き盛りや家庭の事情で難しい場合は外来で治療を行うこともあります。血管拡張薬をベースに、先述のアンギオテンシン阻害薬などを小刻みに調整しながら適切な速度でコントロールします。循環器専門医や腎臓専門医、脳神経外科医など血圧管理に慣れた科の医師の腕の見せ所でもあり、細心の注意を払って調整します。


 ここまで皆さんを必要以上に怖がらせてしまったかもしれません。実際には高血圧切迫症/緊急症を生じる方は稀です。お伝えしたいのは以下の2点です。

①検診などで指摘された160/90mmHg以上の高血圧を放置したり、血圧コントロール不良な状態で治療中断したりしないこと。

②万が一治療を中断してしまった場合でも時々は血圧を測ってみること。 特に過労や不眠が続いた場合、拡張期血圧が120mmHgを超えていないかどうか。

 若い皆さんは残りの人生も長く、未来の社会にとってもまだまだ必要な方々です。予測できるトラブルを回避するために、この特殊な病態について知っておいていただけたらと思います。


1)高血圧学会ガイドライン2025

2)Hypertension. 2023 Dec;80(12):2591-2600.

3)Am J Hypertens 22 : 1199-1204, 2009.