感染症などの急性疾患

感染症

気道感染症:風邪の中に抗菌薬が必要な病態が隠れていないか

  時期によっては10代のかぜ症状の患者さんも多く来院されます。発熱外来用の診察室も活用し、一般の患者さんと動線を分けつつ、できるだけ待ち時間が少なくなるよう診療体制を整えています。

 

 インフルエンザ、溶連菌、マイコプラズマ等には治療薬があり、迅速抗原キットを用いた正確な診断を重視しています。一方で、周囲の流行状況に応じて、症状出現後12時間以内の場合で検査が陰性であっても感染初期と判断し、臨床診断で治療を開始する場合もあります。通常見落としてしまうような淡い反応も見逃さないよう、スタッフ複数名で確認しています。

 

 コロナウイルス感染症については、重症化リスクの高い方には治療薬を提案しますが、基本的には対症療法が中心となります。患者様の年齢や、特にお辛い症状(咳、咽頭痛、鼻水、息苦しさなど)に合わせて、投薬と療養指導を行っています。

 薬剤耐性対策の観点から、一般的な風邪症状に対しては扁桃炎などを除き抗菌薬の処方は慎重に行っています。長引く場合は肺炎・副鼻腔炎・中耳炎などの合併を評価し適切な治療を行います。 適正な診断を心掛けておりますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

気道感染症:コロナでもインフルエンザでもないARIとは?

 広島市の感染症情報センターでは、市内における感染症の発生状況や病原体情報の収集・分析・提供を行ってくれています。定点医療機関から「今週はインフルエンザが〇人、コロナウイルスが×人」といったデータを、広島市感染症週報として公開してくれています。1〜2週間のタイムラグはありますが、どのような感染症が流行しているかを知る上で大変参考になります。


 2025年から、項目に新しく急性呼吸器感染症(ARI:acute respiratory infection)が加わりました。ARIとは、”咳、咽頭痛、呼吸困難、鼻汁、鼻づまりのいずれか1つ以上の症状があり、発症から10日以内の急性症状で、感染症を疑う外来患者”と定義されています。 ここで重要なポイントは、迅速抗原検査などで診断が確定した感染症(インフルエンザ、新型コロナ、幼児のRSウイルス、マイコプラズマ)は別項目で、ARIには含まれません。つまり、ARIはその他の一般的な気道感染症と言い換えることができます。


 基本的には自然治癒するケースが多いため目の前の患者さんに対しては対症療法が中心となりますが、流行を把握する点という点では重要です。「今はインフルエンザウィルスが流行しているな」「コロナウィルスは随分と流行が落ち着いてきたな」「どちらでもない感染症が流行っているな」と地域の状況を判断します。日々の診療において非常に役立つ指標であり、行政の方々や、データ提出に協力されている定点医療機関の皆様の尽力に感謝します。

 さらに感染症情報センターにはARIの一部の患者さんの検体で複数の感染性微生物のPCR検査を行っています。インフルエンザ(4種)、コロナ、RSウイルス(2種)、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザ(4種)、ライノウイルス、エンテロウィルス、アデノウイルスなど、重要度の高いウイルスの検出結果を公表してくれています。一部の医療機関ではこの多項目同時PCR装置(BioFire FilmArray®・BioFire SpotFire®)を導入しているところもあるようですが、検査コストも高く(三割負担で5000円前後)、すべての皆さんが対象となるわけではありません。当院で導入する余裕はありませんが、患者さんの説明には広島市感染症週報のデータを利用しご説明させていただいています。

〇 発熱はすぐおさまり、鼻汁などの症状が主体 → 「ライノウイルスですかね?」

〇 経過がやや長く喉が強く腫れて溶連菌が陰性→ 「アデノウイルスですかね?」

〇 声がかすれたりのどの症状が強い → 「パラインフルエンザですかね?」

 人間は、よくわからないのものに関しては恐怖を感じ、名前(ラベル)があることでそれが克服されます。実際に「原因不明のウイルスですね」と医師から言われるより、「今の流行状況と症状からすると、〇△ウイルスによる症状の可能性が高いですね」と説明された方が、少し安心できるのではないでしょうか?皆さんに安心していただけるような診療を心がけて対応してまいります。

広島市感染症週報のウェブサイト

https://www.city.hiroshima.lg.jp/living/eisei/1003071/1029931/index.html

インフルエンザウィルス:喉の奥にイクラが見えたら

 インフルエンザが流行しているシーズンに病院を受診すると、医師が喉の奥をライトで照らし、「あ、これはインフルエンザですかね~?」と指摘された経験はありませんか?医師は、のどの奥に現れる特有の変化を探しています。


<インフルエンザ濾胞とは?>

 インフルエンザウイルスに感染すると、のどの突き当たりにあるリンパ組織が独特の腫れ方をします。これをインフルエンザ濾胞と呼びます。

 具体的には、いわゆる、のどちんこをくぐった奥の壁に、光沢のある赤い粒が浮き上がって見えます。2007年に宮本昭彦先生(茨城県桜川市、宮本内科医院)が報告したこの所見は、その見た目から「イクラサイン」とも呼ばれています1)2)


 <このサインの意義>

 通常の検査で用いる迅速検査キットは、発熱から12時間未満などの早い段階では本当はインフルエンザなのに陰性と出てしまうことがあります。一方でインフルエンザ濾胞は発熱直後から現れることもあります。

 つまり、検査キットでは判定できない早い段階で診断できる根拠となります。タミフルなどの治療薬は、発症から48時間以内の服用で効果を発揮します。イクラサインをもとに診断治療をすすめることで、早期に症状を改善し、重症化を防ぐ可能性があります。

 また、患者さんにとっても「今日の検査では確定できないので明日また来てください」と言われて二度手間になる負担が減ります。


<解釈における注意点>

もちろん万能ではありません。お子さんや口が小さい方、舌の大きな方は、そもそも喉の奥まで十分に見えないことがあります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の方に見られる咽頭リンパ濾胞の増生(敷石状変化)と似ているため、見極めが必要です。また、時間がたつと融合してしまい、この所見が消失するといわれています。診断においては、①インフルエンザ流行期であるか、②臨床症状が矛盾しないか、③特徴的な色調かどうかの総合的な判断が重要です。


 咽頭画像からAIで判定する医療機器(nodosa®、Aillis株式会社)も登場しています3)。当院ででもいつか導入したいと思っていますが、それまでは心の眼を活用して的確な早期診断に努めてまいります。


1) J.Nihon Univ.Med.Ass.,2013;72(1):11-18

2) Postgrad Med J. 2016 Jul 27;92(1091):560–561  (写真)

3) J Med Internet Res 2022;24(12):e38751

気道感染症+α:夏風邪と激しい筋肉痛「流行性筋痛症」

  夏風邪が流行しやすい季節では、特有の感染症が流行します。


 発熱やのどの痛みといった上気道症状がありその後、「息をするのもつらいほどの胸やみぞおちの痛み」や「歩けなくなるほどの太ももの痛み」が突然現れた場合には、夏風邪のウイルスが引き起こす流行性筋痛症(りゅうこうせいきんつうしょう)かもしれません。


 <流行性筋痛症の原因と症状>

 主に夏から秋にかけて流行しやすいウイルス感染症です。数日の潜伏期間のあとに、発熱や倦怠感などの風邪症状とともに、突発的で激しい筋肉痛が現れるのが特徴です。かつてはデンマーク領のボルンハルム島で流行し、ボルンホルム病とも呼ばれ、主にコクサッキーウイルスが原因とされてきました。近年では、パレコウイルス3型という別のウイルスによる筋痛症も、大人を中心に多く報告されるようになっています。この2つのウイルスは、同じ流行性筋痛症でも痛む場所や特徴に違いがあります。


1. 胸、背中やみぞおちが痛む:コクサッキーウイルス

 手足口病やヘルパンギーナの原因にもなる身近なウイルスです。胸壁の肋間筋や腹壁筋が激しく痛むため、”心臓の発作ではないか””腹膜炎ではないか”と慌てて救急受診される方も少なくありません。小児科を含めた若い世代に多いとされていますが、心臓、大血管、腹部疾患など重篤な内臓疾患の除外が必要になります。


2. 腕や太ももが痛くて力が入らない:パレコウイルス3型

 大人の流行性筋痛症の原因として注目されています。強い筋肉痛と脱力感が特徴で、神経疾患や整形外科疾患との鑑別が必要になります。特徴としては① 2,3 年毎の夏季に乳幼児のパレコウィルス3型による上気道炎流行に 伴って発生し、②家庭内感染で乳幼児を持つ若いお父さんに多く、③高熱とともに全身の強度の筋肉痛と筋力低下が出現、ときどき睾丸の痛みも生じます。

<診断、検査の手順>

  これらのウィルスの同定も研究室レベルでしか調べることは難しいので、そののちの保健所の感染状況の情報公開や地域の流行の程度で判断しますが、医療者がこの疾患を知っているか知っていないかで大きく診療が変わります。

 いずれにしても、他の鑑別すべき急性疾患を否定することが必要です。特徴的な血液検査所見はなく、基本的には、他の重篤な疾患を画像検査や心電図などで除外した上での臨床診断となります。

 おそらく流行性筋痛症だろうなと判断しても、基礎疾患や重症疾患を否定できない所見があったり、患者さんの症状が強く不安な場合には大きな病院に専門医にお願いして診察していただくことも判断します。

 

ご自宅での過ごし方>

  どちらのウイルスが原因であっても、インフルエンザのように治療薬はなく対症療法を行いながら安静にしていれば、数日から1週間程度で後遺症なく自然に回復します。

 しかし、ただの夏風邪による筋肉痛だろう、と思っていても、急激な胸の痛みや腹痛には、心筋梗塞や消化管の病気など、急いで治療が必要な危険な病気が隠れている可能性もあります。また下肢の脱力は筋疾患やギランバレー症候群(ゴルゴ13の漫画では彼自身の持病?とされています)といった神経疾患の鑑別も必要です・

- 突然の激しい胸の痛みで冷や汗が出る

- 足の痛みが強く全く力が入らない

- 水分が全く摂れず、ぐったりしている

 このような症状がある場合は、流行性筋痛症と自己判断せず、早めにご相談ください。夏場は暑さで体力も奪われがちです。規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠と水分補給で元気に夏を乗り切りましょう。

参考文献

臨床神経 2017;57:485-491

小児感染免疫 2021;33:15-20

細菌感染症:白血球数と炎症反応で感染症のタイムコースを理解する

   発熱や急な体調不良で血液検査をすると、結果説明の時に医師から、”白血球数が高いから~”、”炎症反応は上がっていないから~”と説明を受けることがあります。これらの検査は、その臓器に感染があるかを教えてくれるわけではありませんが炎症の有無、程度をある程度推し量ることのできる検査項目です。


白血球数(WBC:white blood cell): 体内に細菌などの外敵が侵入した際、真っ先に応戦する細胞です。感染が起こると数時間で素早く上昇します。とくに好中球という成分が上昇します。感染以外に組織のダメージ(外傷や心筋梗塞など)でも上昇します。

C反応性蛋白(CRP)体内で炎症が起きているときに血液中に増えるタンパク質で、いわゆる炎症反応です。白血球よりも反応が遅く、炎症が起きてから6〜8時間後から上昇し始め、24〜48時間でピークになります。白血球数に比べ、細菌感染でより顕著に上昇しやすいので病勢の指標として使われることが多いです。

 すべての経過で見られるわけではありませんが、白血球とCRPの上昇するスピードの違いから、病状は以下のように移行していきます。

A.初期(WBC↑・CRP→) 感染して間もない時期です。 いち早く反応するWBCはすでに上がっていますが、CRPはまだ反応していませんがこの時期に的確に対処できれば改善も速やかです。

B.極期(WBC↑・CRP↑↑)ピークの時期です。 白血球が高い状態が続き、遅れて反応したCRPも急激に大きく上昇します。クリニックから病院に緊急で紹介になる根拠となるデータの一つで、この時期は症状も一番つらいことが多いです。

C. 回復期(WBC→・CRP↑) ピークを越え、症状が落ち着いてきた時期です。 素早く反応する白血球は一足先に正常値に戻り(横ばい)、遅れて上がったCRPはまだ高い状態が残っています。この後、徐々にCRPも下がっていき、完治に向かいます。

  当院でもこれはただの熱でないかも、と判断した場合に院内で血液検査を行っています。その瞬間の数値が高い・低いだけでなく、発症してからの時間経過で2つの項目の組み合わせをみることが重要です。「熱が出たばかりの頃」と「熱が数日続いている頃」ではデータの意義が異なります。全身状態やほかの検査所見と合わせての解釈が必要です。

尿路感染症

尿路感染症も日常的によく見られる疾患の一つです。尿路感染症とは、腎臓から尿管、膀胱、尿道に至る尿の通り道のどこかで細菌感染が生じた状態を指します。

 発熱の有無はケースによって異なりますが、頻尿(トイレが近い)や排尿時の痛み(英語ではurrinary irritation:排尿時のいら立ちと言います)など、下部尿路の症状が特徴的です。ほとんどは細菌感染によるものであり、頻繁に繰り返すケースでなければ、抗菌薬による治療で改善が見込めます。
 

 ただし、感染が腎臓に及ぶ腎盂腎炎(じんうじんえん)になると、細菌が血流に乗って全身を巡る菌血症を引き起こすことがあります。激しい悪寒や震え、血圧低下、頻脈を生じることもあり、治療が遅れると命に関わる危険性があるため注意が必要です。


<女性:単純性尿路感染症が多い>
 女性は男性に比べて尿道が短いため、身体の構造上、腸内細菌などが侵入しやすく膀胱炎を繰り返しやすい傾向があります。おむつをしている介護が必要な高齢の方には慢性的に膀胱炎所見が見られます。一方で若い方では、トイレになかなか立てない環境や、性交渉後に生じやすくなります。
 おおむね発熱はあっても軽微で、尿路の構造に特別な異常がないことが多いため、外来での抗菌薬の服用で改善するケースがほとんどです。しかし、高熱が出た場合は膀胱炎にとどまらず腎盂腎炎の可能性があり、抗菌薬の点滴や入院治療が必要になることもあります。

<男性:複雑性尿路感染症が多い>
 男性は尿道が長く尿路感染症をめったに起こしません。逆に発症した場合は以下のような尿の流れを滞らせる基礎疾患が隠れていることが疑われます。
〇尿路結石
〇尿道カテーテルの留置
〇尿路がん、前立腺肥大症
〇先天性の尿路異常 など
 このように原因が複雑に絡んでいることが多いため、女性のケースに比べて治療が難航することがあります。また、前立腺に生じる急性前立腺炎という病態もあります。これは高熱や頻尿や排尿痛などの症状があっても尿の濁りが見られないことがあり、血液検査や画像検査を行って初めて診断がつくことも少なくありません。この場合、長めの抗菌薬治療が必要となります。

<特殊な病態>
 複雑性尿路感染症で重症であったり、尿路感染を繰り返すケースは泌尿器科での精査が必要です。尿路結石が多発している場合は、尿路結石が析出しやすくなるような病態(高尿酸血症、原発性副甲状腺機能亢進症、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、ビタミンD過剰摂取)がないかを評価することも重要になります。また、一般内科で治療することは少ないですが淋菌、クラミジア、ウレアプラズマなどの性感染症も広い意味では尿路の感染症といえます。

 病院と異なり、当院に受診される尿路感染症の方は単純性膀胱炎がほとんどですが、腎盂腎炎や急性前立腺炎を見逃さないように診療を行っています。

<尿路感染症の予防・再発防止>
〇こまめに水分をとる:尿量を増やし、膀胱や尿道に入り込んだ細菌を洗い流すことが一番の予防です。
〇トイレを我慢しない:尿を長時間溜め込むと、膀胱内で細菌が繁殖しやすくなります。
〇下半身を清潔に保つ:特に女性の場合、排便後は”前から後ろへ”拭くように習慣づけ、腸内細菌が尿道口に入らないように気をつけましょう。
〇尿路結石のリスクを下げる:尿酸結石を防ぐために高尿酸血症の治療を行いましょう。カルシウム結石を防ぐためクエン酸を意識して摂取しましょう。