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内科
うした東内科クリニック
〒732-0063
広島県広島市東区牛田東1-1-26
 TEL : 082-836-7637 

2026/06/15  受けていますか?骨粗しょう症検診

 高血圧や糖尿病などの慢性疾患による合併症は、新薬の登場や健診システムで予防効果が表れています。がんや認知症は最もリソースを割くべき疾患ですが、高齢者の脆弱性骨折もゼロにはできない重要な領域であるといえます。

脆弱性骨折とは、軽度な外力によって発生した骨折で、立った姿勢からの転倒かそれ以下の外力と定義されます。背骨(椎体)、大腿骨の付け根(大腿骨近位部)、二の腕(上腕骨近位部)、手首(橈骨遠位端)の4か所でよく生じます歩行や立位に関わる大腿骨骨折、椎体骨折がとくに重要で、要介護状態や認知機能の低下を招く引き金となります。多くのご夫婦の場合、夫を先に看取り、その後は自立した生活を送られている女性が多くいらっしゃいます。その中で、大腿骨骨折や椎体骨折を契機として自宅の生活が困難になり施設に入所せざるを得なくなる方もおられます。

脆弱性骨折の危険因子である骨粗しょう症は、加齢とともに有病率が増加します。70歳代女性の3人に1人、80歳代の女性の半数が骨粗しょう症であるといわれています。骨粗しょう症の薬物治療対象となる患者さんの背景として大きく分けて2つあります。

〇二次予防
 脆弱性骨折をきっかけとして整形外科を受診・入院し再発予防として治療を開始することです。すでに骨折を起こしてしまった状態で絶対適応であり、多くの患者さんも必要性を受け入れ治療を継続されます。

 〇一次予防
まだ骨折はしていない段階での治療です。高齢女性のほとんどが当てはまり、症状もありません。実際にどのタイミングで薬物治療を考えるか悩まれる方も多いと思います。天然のビタミンD・カルシウムの摂取、運動、日に当たることなど生活習慣で努力いただくことが第一です。

骨粗しょう症のガイドラインにおける薬物治療が必要な方は以下の通りです。

①骨塩定量検査で若年平均の70%未満

②骨塩定量検査で若年平均の70-80%未満で、大腿骨折の家族歴、あるいは40歳以上で骨折リスク評価ツール(FRAX®)でリスクが高いと判断された場合

③既存の他疾患に対して、長期に副腎皮質ホルモン投与や性ホルモン低下療法を受ける方やリウマチのある方


 一次予防対象の方を整形外科医だけではカバーすることは大変です。一方で内科クリニックでは骨塩定量の検査設備がないこともあり、通常の診療だけでは治療対象者を見逃してしまいます。

 広島市では、女性では20歳から男性では40歳から5歳刻みで骨粗しょう症健診が行われていますが、自治体の検診受診率は東高西低の傾向があります。2023年時点で40歳以上の女性について広島県の受診率は4%台にとどまり、14%まで引き上げることを目標としています。

 当院では機器による骨塩定量検査は行えませんが、骨粗しょう症検診の結果をお持ちいただければ、FRAX®、血液検査による骨代謝マーカーを参考にして治療アドバイスが可能です。 女性の皆様にとって、骨のケアは”自立するため””子や孫に心配をかけないため”に定期的な骨粗しょう症検診を受けましょう。


 将来、倒れそうになったらすかさずバランスをとってくれるような介護装置が開発されたらよいのになあ、と願っています。

参考)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版

2026/06/08  延長したセカンド、サードライフをどう過ごすか


1980年ごろまでは、定年は55歳が一般的だったそうです。その後、寿命の延長や人手不足などの背景もあり、1998年には60歳定年が義務化されました。私が物心ついた頃には、「60歳=還暦=定年」というイメージが定着していたように思います。 さらに2013年には、希望者全員を原則65歳まで雇用することが企業に義務付けられました。業種にもよりますが、これにより定年は65歳という認識が広く浸透したのではないでしょうか。

そして2026年の現在、当院にお見えになる男性の患者さんの中には、再雇用制度や転職などを利用し、70歳を過ぎても現役で働かれている方がたくさんいらっしゃいます。そもそも最近の60代、70代の方は、昔の映像で見る高齢者や俳優に比べても若く見えます。物価上昇への備えや、子や孫に援助をしたいという思いをお持ちの方も多いようです。実際、働き続けている方は筋肉量もしっかり維持されており、非常にお元気な印象を受けます。

健康な限り働き続けることは心身にとって良いことづくめですが、一つだけ懸念があるかもしれません。それは、現役時代が長くなることで、身近なコミュニティへ参加するタイミングを逃してしまうことです。かつてのように早めに定年を迎えていれば、まだ体力があるうちに町内会の仕事や趣味の集まりに参加し、輪を広げることができたかもしれません。しかし、ギリギリまで仕事に打ち込んでいると、退職後に輪に入りにくくなってしまう―。 
女性は近所付き合いやデイサービスなどでも自然と関係を築かれることが多い一方、男性は仕事以外のつながりに一から溶け込めないというケースも少なくないようです。また現代は女性も常勤で定年まで働く時代なので、男女問わずそのような問題は起こり、隣近所との結びつきが希薄になってしまうのかもしれません。

実は私も集合住宅暮らしで、地域の集まりにはあまり参加できていません。仕事も大切ですが、老後の「ライフ・ワーク・バランス」や、身近にあるコミュニティも大事にしていかねばなりませんね。

2026/05/29  ハゲワシの減少とワンヘルス

 
人や動物の健康と取り巻く環境を包括的に捉え、人獣共通感染症などの課題に連携して取り組む概念をワンヘルス (One Health)といいます。今回は身近な薬を例にこのワンヘルスについて考えてみたいと思います。

私たち人間の胃酸はpH 1.5〜2.0の強酸ですが、粘膜を守るバリア機能が働いているため元気な方は基本的には胃潰瘍(かいよう)にはなりません。十二指調を含めた消化性潰瘍においては、ピロリ菌感染が最大のリスクですが、鎮痛薬によるNSAIDs潰瘍という病態が次いで知られています。
すなわち、ロキソプロフェンやジクロフェナクといったNSAIDsは胃粘膜を保護するプロスタグランジンの生成を阻害します。結果として胃のバリア機能が低下し、潰瘍が発生します。 さらにプロスタグランジンは腎臓の動脈血管を拡張する作用があり、NSAIDsの使用は急性・慢性の腎障害を誘発する原因となります。

NSAIDsは若い方にとっては安全かつ有効な薬剤ではありますが、臓器予備能の低下した高齢者においては必要最小限の使用が望ましい薬剤です。


このメカニズムが人間以外の動物で問題になったのが、20年ほど前に話題になった南アジアにおけるハゲワシの事例です。 ハゲワシの胃酸はpH 0.2〜1.0という、人間の100倍近い腐食性を持つ強酸です。これにより骨まで溶かし病原体も死滅させる自然界の掃除屋としての役割があります。ところが、2000年代初頭にパキスタンやインドでハゲワシが激減しました。原因は、家畜の治療に使われたジクロフェナク(いわゆるボルタレン)と考えられています。鳥類は窒素の排泄方法が哺乳類とは異なり尿酸が蓄積やすく、体重を軽くするため水分を摂らないことからもともと腎障害(痛風腎)になりやすいとされています
結果として薬剤が残留した家畜の肉を食べたハゲワシは、プロスタグランジンの低下により腎不全、一部消化性病変を起こしてしまったのではと考えられます。結果として野犬や感染症が増加するという人間の公衆衛生上の問題も引き起こしたそうです。

2006年以降は家畜へのジクロフェナクの使用は禁止され、獣医師・畜産家の努力もあり、現在は少しずつ個体数が回復しているようです。人間にとって比較的安全な薬剤であっても、濫用や処理方法によっては、バタフライエフェクトが生じ他の動物に影響を与えてしまう事実に考えさせられます。ワンヘルスの視点を持ち薬の適正使用を心がけることは、自分自身の体を守るだけでなく地球環境を守ることにも繋がりますね。


参考資料
Nature. 2004 427:630-633



2026/05/23   ドライバーの健康

 先日自動車が故障してしまい、代車をお借りしています。走り慣れた道でも緊張し、何事もなく帰ることができたらほっとしています。

 休日の郊外のドライブはストレス解消になりますが、運転そのもの、とくに通勤での渋滞や長時間の運転業務は緊張を強いられるものです。実際に産業医学でも自動車の運転に係わる健康問題は研究のテーマです。

〇通勤形態による心疾患の発症リスク 
 自転車や徒歩での通勤者に比べ、自動車通勤者では冠動脈狭窄の有病率・石灰化スコアも高いことが示されました。これには、自動車通勤者における血圧高値、BMI高値、脂質プロファイルの悪化、糖尿病の多さなどが影響するものと推定されます1)。また、イギリスのデータベース研究では自動車通勤等のグループと比較して、自転車通勤は心血管疾患発症リスクを46%、すべての死亡リスクも41%低減させました。徒歩通勤でも心血管病の発症リスクが27%低下しています2)。観察研究なので、元気だからこそ自転車通勤や徒歩通勤ができている、という要因も否定はできませんが…。

〇渋滞がもたらす血圧への影響 
 レバノンで行われた研究では、交通渋滞にさらされたドライバーは、そうでないドライバーと比較して、平均収縮期血圧(142 mmHg vs 123 mmHg)および拡張期血圧(87 mmHg vs 78 mmHg)が高かったそうです3)。 また、通勤時のルートがドライバーに与える影響を調べた研究があります。予測不能な渋滞や停止が多いルートを運転したドライバーは、目的地に到着した後も収縮期・拡張期血圧がしばらく上昇するという持ち越し効果があることがわかっています4)

〇長時間運転・職業ドライバーのリスク
オーストラリアのデータ研究では、1日の運転時間が長くなるほど、肥満、睡眠不足、身体活動不足、精神的健康の悪化が増加しました。特に1日120分以上の運転は、これらの指標の悪化と最も強い相関を示しました5)。トラック、バス、タクシーなどの職業ドライバーとその他の労働者を比較した古典研究では、基礎疾患や喫煙状況などの要因を調整しても、職業ドライバーの急性心筋梗塞の発症リスクが1.1~1.49倍と高いことが一貫して示されています6)。座る時間が長いと、下肢の静脈血栓症などの懸念もあります。

〇大気汚染の影響
渋滞中は前方の車の排気ガスを吸い込みやすくなり、微小粒子状物質(PM2.5など)の濃度が車内で上昇します。これは、体内の酸化ストレスや炎症を引き起こし、呼吸器系のみならず循環器系にダメージを与える可能性があるそうです7,8)

 生活や仕事において自動車は欠かせないものですので、日常的な工夫を3つご紹介します。

1. あえて遠くに停める
   職場の駐車場やスーパーなどで、入口から少し離れた場所に車を停めてみましょう。1日数分でも歩く時間を増やすことが、貴重な全身運動になります。

2. 信号待ちでの深呼吸
   イライラしがちな渋滞や信号待ちでは、深呼吸により促す副交感神経を有意にしましょう。渋滞などのときはカーステレオもあまりアップテンポな音楽でない方がよいかもしれません。車両停止中でもスマートフォンの閲覧は厳禁ですね。

3. 空調を賢く活用する
   トンネル内や激しい渋滞時には、エアコンを内気循環に切り替えることで、外の汚れた空気の流入をある程度防ぐことができます。ただし、内気循環のままにしていると車内の二酸化炭素濃度が上がり、眠気や集中力低下の原因になります。渋滞を抜けたら外気導入に戻すことを忘れないようにしましょう。
  
  人を乗せたり、長距離荷物を運ぶ職業運転手さんは、危険作業員や外科医に匹敵するストレスを抱えていると思います。電気自動車の推進・自動運転などのイノベーションでドライバーのみなさんの健康が向上することに期待したいですね。

参考資料
1) Br J Sports Med. 2026 Feb 12;60(4):248-257
2) BMJ. 2017 Apr 19:357:j1456.
3) J Clin Hypertens (Greenwich). 2017 Dec;19(12):1366-1371
4) Am J Community Psychol. 1990 Apr;18(2):231-57.
5) PLoS One. 2014 Jun 9;9(6):e94602.
6) Epidemiology. 2003 May;14(3):333-9.
7) Circulation. 2010 Jun 1;121(21):2331-78.
8) Eur Heart J. 2018 Oct 7;39(38):3543-3550.


2026/05/10   日本経済の行く末に循環管理の難しさを重ねて

金融政策は重症患者の循環管理に似ています(とかねがね思っています)。

モノに対する通貨のバランスという視点で、デフレーション(脱水による循環不全)に対して、インフレーション(体液過剰による血圧上昇、臓器うっ血)と言えるかもしれません。国民(末梢組織)の健全な営みを保つために、何れかに偏りすぎるのことは好ましくありません。

原則として、デフレ時は金融緩和(大量輸液)を行い、インフレ時は緊縮財政(制限輸液)を行います。金利政策は循環作動薬に相当し、デフレ時には金利を下げ(血管収縮薬・昇圧薬)、インフレ時には逆に金利を上げる対応(血管拡張薬・利尿薬)が行われます。

平成不況以降、日本はデフレ脱却に苦戦してきました。大量の輸液と血管収縮薬を使い続けた結果、見かけ上血圧は維持できていますが、末梢の循環不全にかかわらず、浮腫・胸腹水が合併しています。いわば、国民の生活実感は潤わないままに株価や物価は上昇し、経済格差が生じています。

ここ数年は国際情勢などの外部要因が大きいですが、内部要因としては日本というかつての経済国家が、少子高齢化(老いた心臓)のまま、全盛期の体格や代謝(経済規模や社会保障)を維持しようとしていることに限界があるのかもしれません。しかし、若い世代のことを思えば国の運営を「緩和ケアで安らかにお身取りしましょう」とあきらめるわけにはいきませんので、これからの国民は、移民導入やイノベーションへの選択と集中という新規治療で経済成長を維持するか、現在の心機能に見合ったサイズへのダウンサイジングを受け入れるか選択を迫られます。

必然的に地方を中心とした公的機関・研究機関への補助金などの削減、社会保障費の適正化も避けては通れないでしょう。高度医療を行う急性期病院ですら経営が大変な時代で、特に過剰とされる無床診療所への風当たりは強くなります。
当院も時代が変わっても地域の皆さんに求められる存在に変化していきたいと考えています。

2026/05/04   時代を動かした蘭方医、大村益次郎

諸葛亮しかり二兵衛(竹中半兵衛、黒田官兵衛)しかり、名軍師は歴史好きの男性の中二病マインドをそそる存在ですよね。幕末の長州藩の大村益次郎も歴史好きには人気があり、1977年には司馬遼太郎氏原作の大河ドラマ『花神』の主人公でした。

5月の連休に山口方面に行ったついでに一度行ってみたかった大村益次郎の故郷(周防鋳銭司)に寄ってみました。のどかな田園に大村神社と資料館があり、近くにひっそりと夫妻の墓所がありました。

町医者の子として生まれ大阪の適塾では福沢諭吉や手塚良仙(手塚治虫先生の曽祖父)と同窓であったようです。その蘭学知識と技術力を買われ、宇和島藩で兵学者・造船技術者として活躍した後、故郷では長州藩の軍制改革を行い、四境戦争(第二次長州征討)では長州の軍事顧問として幕府軍の撃退に成功しました。その後の戊辰戦争、特に上野戦争では卓越した用兵を示しました。
残念ながら維新後、不平士族に京都で襲撃された傷が元で亡くなりますが、兵部大輔として陸軍の創設に貢献し靖国神社の参道にその銅像が建っています。


 彼には医者時代にこんな逸話があります。当時も医者は、気休めでも葛根湯などの薬を出すものと思われていましたが、彼は診察の結果、単なる風邪だとわかると、「風邪に効く薬はない、帰って暖かくして寝ていなさい」といって返したそうです。

 現代でも通じる正論ですが、薬を期待した患者からは何もしてくれないと医院はあまり流行らなかったそうです。

 愛想はなく当時でも変わり者であったようですが、尊王攘夷など観念論が先行しがちであった長州藩においては異質な近代型の現実主義者・合理主義者であったといえます。


 幕臣方に勝海舟とならぶ能吏かつ合理主義者として小栗上野介忠順(ただまさ)がいます。大村益次郎も彼の軍事指揮官としての能力に警戒していたとされる人物です。2027年の大河ドラマ”逆賊の幕臣”の主人公の予定です。小栗忠順についてはまたの機会に…。



  大村益次郎(1824~1869):の肖像画(キヨッソーネ作※)

 おでこが大きく特徴的なので、火吹き達磨(炭の燃焼効率を高めるための道具)といわれていました。軍隊を効率よく運用する能力に長けていた彼にぴったりの渾名であったといえるかもしれません。

 ※ キヨッソーネはイタリアからのお雇い外国人で明治天皇や西郷隆盛の肖像画でも有名です。

2026/05/01   開院1年を経過して

 ※開院当初にいただいた胡蝶蘭が二鉢咲きました。


2025年5月1日にこだまクリニックの後を受けて開院させていただき1年が経ちました。 

こだまクリニック時代の方に加え、新しく通っていただいている方も少しずつですがいらっしゃいます。正直あまり混雑しておらず、来院から呼び出しまで時間はかからないため?か、皆さんも待ち時間に気をもまず、穏やかにお待ちいただいている気がします。また、10-30代の若い方を診療することも増え、私自身も活力をいただいています。

純粋な診療以外の業務においては不慣れなことばかりでスタッフには”クリニックの医師としての仕事”を教えてもらっています。
さらに近隣の薬局の皆様、そして関連業者の皆様に支えられての1年でした。また、前院長の児玉先生には、現在もご助言とサポートをいただいております。

当院のような都市近郊型の内科クリニックに求められることは、医療過疎地域の何でも対応せねばならないクリニックと異なり、専門的な治療が必要なケースを早期に見極め専門医へと繋ぐ窓口です。実際にこの1年間で、病院や近隣の先生方に快くご対応いただました。
そのようにスムーズに繋ぐことができたケースがある一方で、もう少し早く診断できていればと自身の至らなさを省みることもあり、日々研鑽の必要性を感じています。とくに、救急や難症例を快くお引き受けくださった、二葉の里病院、広島市民病院、広島赤十字・原爆病院、翠清会梶川病院、土谷総合病院、県立広島病院、広島大学病院の関係者の皆様(思いつく限りで抜けがあったらすみません)には、この場を借りて深く御礼申し上げます。

様々な面で我慢をしてくれている家族にも感謝しつつ、自身の健康に注意しながら、2年目も日々の診療と運営に邁進していく所存です。




※開院時チラシです。

2026/04/23   健診における、あわてんぼうのエラー

 健診やドックでの二次精査で引っ掛かると不安になりますよね。

 基本的に検査の基準値は、どの医療機関で受けても一致するように検査の精度が統一されています(外部精度)。しかし中にはその日のコンディションによって、実際よりも悪く見えてしまう項目があります。統計学ではアルファ(α)エラーと言い、検査では偽陽性と言います(※)。

〇血圧(白衣高血圧)
 医療機関や健診会場で一時的に緊張のために血圧が上がる方がおり、白衣高血圧と呼ばれています。議論はありますが、近年は真の高血圧症の方ほどではなくても、脳心血管病リスクが上がると考えられています1)2)
 ご自宅での血圧が安定しており、臓器合併症がないのであれば、通院は不要でストレス回避、睡眠や運動といった生活習慣の見直しで経過を見ることができることもあります。しかしながら、白衣高血圧は将来的な真の高血圧の発症リスク因子と考えられていますので若い方においては注意が必要な所見です3)

〇腎機能(脱水による影響など)

 腎機能の指標であるeGFRは脱水状態(血液の濃縮)で数値が悪く出ることがあります。eGFRは筋肉の代謝物であるクレアチニンの値から計算されます。前日からの絶食や、採血当日に内視鏡やエコーがある場合の当日の飲水制限、特に夏場の発汗の多い時期の健診では、クレアチニンが上昇、eGFRが低下しているように見えることがあります。 また、激しい運動を行っている方は、筋肉が壊れることでクレアチニンの濃度も高くなるためeGFR実際より悪く見えることがあります。再検査では、水分が取れた状態での再検査やシスタチンCといった別の指標に加え、検尿やエコー検査を用いて評価します。


 というわけで、二次検査で取り急ぎは問題ありませんね…、となる方も多いですのでご安心ください。結果に問題がなければ、引き続き職場で指示される健診を受けていただくことで、定期通院までは不要です。就労世代の皆さんにとっては、平日・土曜の受診は少し億劫と思われるかもしれませんが、そのまま様子を見てよいのかどうかを判断するためにも、初めて指摘された年度だけでも受診が望ましいと思います。お気軽にご相談ください。


(※)逆に、本来病気があるのに見逃してしまうβエラ―は医療、特に健診やがん検診においては避けたいところです。ですので、健診の判定は厳しいくらいでよいと考えられています。αエラ―をあわてんぼうのエラー、βエラーをぼんやり者のエラーと覚えます。

1)Archives of Internal Medicine. 2005;165(13):1541-1546.
2)Annals of Internal Medicine. 2019;170(12):853-862
3)Journal of the American College of Cardiology (JACC). 2005;46(3):508-515.



2026/04/19   人口減少の続くこの国で…

妊娠している女性は尊い存在です。医学が発展しても出産年齢の上昇している現代において、トラブルのない妊娠出産はより重要になっています。

直接お産に関わらない内科であっても、慢性疾患(内分泌疾患、リウマチ膠原病、心疾患、腎疾患)を抱えた女性が無事妊娠出産することに関わることはやりがいのある反面、緊張感のある業務といえます。多くは大学病院や大規模総合病院で各専門医が産科と協力して診療していることが多いと思います。

妊娠中は使用できる薬剤が極めて限られます。また、安易に侵襲的な検査を行うこともためらわれます。病院勤務のころ、慢性腎炎の妊婦さんを内科の立場で併診していたときは、軽症であっても早く無事出産にいたらないか気をもんだものです。

例を挙げると、糖尿病ではあらゆる属性の患者さんの中でも最も厳しい血糖管理が求められます。血糖コントロールが甘すぎても厳しすぎても胎児に良くないといわれており、専門医によるインスリン治療を必要とします。また、腎不全で人工透析をされている女性の出産においては、通常行う週3回の透析では胎盤や羊水など、胎児を取り巻く環境が変動するため不十分です。これらを一定に保つ目的で出産前から入院していただいて出産直前は週6~7回の透析を行うなど集中的なケアが行われます。

これらの診療はしっかりとした体制、経験のあるスタッフのいる施設での対応が必要となります。病院経営が厳しい時代でも周産期スタッフ+裏方の診療科を支える医療体制、社会を維持してほしいと願うばかりです。



2026/04/07   病院では若い先生に担当してもらうほうがよいかも?

 春になると総合病院では、医学生→研修医、研修医→専門を決定した専攻医が赴任しにぎやかになります。主治医はできるだけベテランがよいかどうかは、患者さんとの相性によるところが大きいでしょう。最近では若い先生が担当になっても、それを否定的に捉える患者さんは以前に比べて減ってきたように感じます。

  以前に比べ様々な教育ツールが増え、若い先生はよく勉強していると感じます。医療知識はアップデートしないと、すぐに時代に取り残されてしまいます。総合病院の医師はおおむね信頼はできますが、若い医師に比べてベテラン医師ほど能力差が大きくなります。身も蓋もない言い方をすれば、年配の医師ほど当たり外れが大きいです。

不測の事態に緊急対応する場面では、ベテラン医師の豊富な経験が不可欠です。しかし、外来や入院中の対応に関しては、若手医師の方が丁寧で一生懸命なことが多いのではないかと思います。近年、直美(研修医終了後に直接美容クリニックに就職する医師)という言葉が議論になっていますが、忙しい病院で研鑽を積んでいる若い先生たちは信頼できると思いますよ。


2026/03/31   昔の名前でつい…

  かつて成人病から生活習慣病へと名称が変わり、予防意識の向上に貢献しました。現在その生活習慣病という名称が見直しの時期を迎えています。

1. 成人病(1950年代〜)

 かつて、生活習慣病と呼ばれている病気は、成人病と呼ばれていました。当時、日本人の死因の上位が結核などの感染症から、脳卒中や胃がんへと変化してきたことが背景にあります。実際に戦後の栄養難の時代には、現在ありふれた病気である2型糖尿病は論文で症例報告のテーマになるほど珍しい病態であったといわれています。 
 成人病という名称は、加齢のため仕方がないと諦められがちで、予防への意識が働きにくい状況でした。また未成年でも生じるケースもありますので後述のように見直しがはかられたわけですね。


2. 生活習慣病(1996年~)

 聖路加国際病院の故・日野原重明先生は、これらの病気は加齢に加え若い頃からの食事、運動、喫煙、飲酒などの習慣の積み重ねによって起こるとして、 生活習習慣病という名称が提唱されるようになりました。予防医学も重要視されるようになり、生活習慣の改善によって予防可能な疾患であるという認識が膾炙したといえます。現在も日常診療や健診指導で生活習慣病という言葉は使用されています。

  一方で生活習慣病という言葉は、自分自身に甘い人がなるというニュアンスを含みがちです。必要以上に自責の念に駆られたり、周囲から偏見の目で見られたりする問題が指摘されています。実際には、これらの病気の発症には遺伝的要因や社会・経済的な環境も深く関わっています。
 普段診療していて、なかなか自分を厳しく律することができない人がいることは否定しませんが、減塩に気を付けていても血圧が高かったり、やせていても血糖値が悪い方はおられます。 疾患感受性(遺伝を含む素因)に加え、生活習慣が重なった時に発症する方が多いといえるでしょうか。


3. NCDs: Non-Communicable Diseases( 今後?~)

  不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、大気汚染などが寄与する、がん・糖尿病・循環器疾患・呼吸器疾患・メンタルヘルスをはじめとする慢性疾患をまとめて世界保健機構が総称したものです。感染しない病気という客観的な事実のみを示しているため、患者への自己責任の押し付けや偏見のイメージが軽減されています。欠点としては循環器疾患のみならず、がんなども含んでおり包括的すぎるため使い勝手が悪いかもしれません。どちらかというと公衆衛生のキャンペーンで使われる用語であり、日常診療で”SDGs”のように人口に膾炙して定着するかはまだ議論のあるところです。

 
 個別の病態に関しても名称変更の話題があります。
 ●糖尿病 → ダイアベティスの変更提案
  日本糖尿病協会は、尿に糖が出るという症状は原因でなく結果の一部に過ぎないことや、排泄物を連想させる名称が偏見を生んでいるとして、英語名のDiabetesへの呼称変更を提案し、現在議論が進められています。

 ●脂肪肝→脂肪性肝疾患へ変更(2024年〜)
 これまで非アルコール性脂肪肝などと呼ばれていましたが、アルコールや脂肪(Fatty:太っちょのようなニュアンス)という言葉が偏見を生むとして、国際的な流れに合わせて日本でも代謝機機能関連脂肪性肝疾患(長い!)の名称が正式に導入されています。

 このほかに、らい病→ハンセン氏病(1996年~)、精神分裂病→統合失調症(2002年~)、痴呆症→認知症(2004年~)、妊娠中毒症→妊娠高血圧症候群(2005年~)、慢性関節リウマチ→関節リウマチ(2006年~)など、病名変更が行われています。
 変更直後は混乱しますが、時間が経てば定着してきます。若い世代の医療者ならすぐに適応できますが、中年以降になるといまだに昔の名前で呼んでしまうこともあります。覚えることが多い、医学部の学生泣かせではあります。

  看板を架け替えただけと揶揄されることもありますが、医学の進歩や、社会規範の成熟、変容に基づく背景があるといえるでしょうか。多少専門外の分野であっても医療者として常に認識をアップデートしていきたいですね。

2026/03/21 桜の時期の病院の内幕:病院勤務医の先生の苦労を思って

 どの業種においても年度末は異動で忙しく混乱する時期です。公立学校の先生も大変そうですが(3月中旬に辞令が下り月末で荷物をまとめて異動せねばならないそうです)、医療現場も例外ではありません。かつては医師の間でも有給休暇を消化できる雰囲気はなく、3月下旬まで出勤することが一般的でした。しかし昨今は、有給休暇の取得義務厳格化もあり、毎年3月末の病院は人員が手薄になります。

 医師の異動が他の業種と異なるところは、転勤ではなく同業他社への転職です。大きな病院はだいたい大学医局からの派遣医師で、市民病院→私立の医療法人、県立病院→大学病院など、経営母体の異なる施設間を異動し退職金や俸給体系は引き継がれません。厳密には大学医局と医師個人の間には労使関係はないのですが、大学医局の推薦で病院へ就職が決まる、という業界独特の慣習があります。形式上は依願退職で、異動のたびに病院事務員さんに指示されるままに辞職届にサインします。私も勤務医時代は2年ごとの異動で有給休暇も退職金も増えないままでした。この人員配置は地域の診療リソースを保つために必要なことではあるのですが、個人や派遣先への配慮が乏しいこともあり現場は一時的に混乱します。私が過去に勤務していた病院でも、部長先生以外のスタッフ4人が全員交代する部署があり、残された部長先生が新体制が整うまで1人で入院患者を抱えて苦労されていました。

 まず異動した医師は新しい環境(ローカルルールや人間関係)に慣れるまで緊張感を強いられます。また4月上旬は当直・夜間待機勤務を免除される代わりに4月下旬~5月連休に頻繁に割り当てられ異動の年はゴールデンウィークの休暇計画は立てられません。一方で異動のない残留医師も、4月は新人も配属される時期なので中堅・ベテランによるバックアップ待機が必要でしばらくは気が抜けません。さらに3月下旬~4月初旬にかけて当直・夜間待機や不在Drの代診が集中するため、医師の家庭では春休みにも関わらず子供をどこにも連れて行けないという事態はあるあるです。結果として、3~5月の連休までの気候のよい時期にあまり休めたことがないという病院勤務の先生は多いのではないでしょうか。 もう少し異動の時期を分散させるとよいのでしょうが、なかなか難しいのが現実です。

 この時期は大病院では休診が多く、外来の混雑を感じられることがあるかと思います実際に初診紹介枠や手術枠が制限されたり、急患対応が困難になる科が生じ診療制限が行われることもあります。そのような中でも診療の質を維持しようと大病院のスタッフは尽力されていますので、この時期に大病院の対応に不満があったとしても(かかりつけなのに救急受診を断られた、外来の待ち時間が長い、医師が忙しそうにして愛想がない)、事情をご承知いただきたいと思います。

 当院もこの病院がマンパワー不足の時期は待てる紹介は急がずにと考えてはいます(結局お願いすることもしばしばですが…)
 また、自身が急病にかかりませんように…と祈りながら過ごしています。皆さんもこの時期は病気やけがにお気を付けてくださいね。

2026/03/15 下の血圧が高めといわれたあなたに

 血圧は上下の血圧があり、上の血圧を収縮期血圧、下の血圧を拡張期血圧と呼びます。心臓がギュッと縮んで血液を動脈に送り出すときの血管にかかる圧力が収縮期血圧、その後心臓が緩みながら次の拍出のため血液をためているときの圧力が拡張期血圧です。高血圧症の定義は140/90mmHgですが拡張期血圧だけ高いといわれている方、特に若い世代でいらっしゃいませんか? すぐに治療が必要なわけではありませんが、拡張期血圧の上昇は初期のサインです。

<上下の血圧が変化するメカニズム>

①高血圧なし(例:120/75㎜Hg ) 

健康な若い人の血管は、ゴムホースのようにしなやかです。心臓が血液を送り出すとき、血管が適度なクッションとなり圧力を吸収し収縮期血圧は上がりません。心臓が緩んでいる間も、血管のしなやかさによって血液を全身へスムーズに送り届け、適切な拡張期血圧が保たれています。

②高齢の高血圧(例:150/60㎜Hg )

高齢の方は加齢、高血圧・脂質異常症の暴露、喫煙によって、大動脈などの太い血管が硬くなり弾力性を失います(動脈硬化)。硬い血管では心臓から送り出される血液の圧力を吸収できないため、ダイレクトに血管壁へ強い圧力がかかり収縮期血圧が高くなります。一方で血管の柔軟さがなくなっているため、心臓が休んでいるときに血液を押し出すサポートができなくなり、血管内圧が急激に下がります。そのため、拡張期血圧が維持できず低くなる傾向にあります。結果として上下の血圧の差が開いてしまいます。

③若年の高血圧(例:138/90㎜Hg)

大動脈のしなやかさは保たれていますが同世代の健康な方と比べ、動脈が収縮している状態にあったり、体液量が過剰で血管内ボリュームが高くなっています(血管抵抗の亢進)。この状態では心臓が緩んでいる拡張期でも動脈圧が高い状態にあり、若い人に多くみられる下の血圧だけが高い状態です。血管を収縮させるのは交感神経や、昇圧ホルモンの影響と考えられています。ストレスや不規則な生活スタイルなどによる自律神経の緊張状態、肥満、運動不足や過度のアルコールなど生活習慣の影響が主ですが、睡眠時無呼吸など二次性高血圧などが隠れていることもあります。体液量の過剰は主に塩分摂取の過剰や肥満などの影響です。そのうち収縮期血圧も上昇してきます。

<結局どのタイミングで治療が必要ですか?>

基本的に収縮期血圧は臓器のダメージとの相関が強く治療の指標とされています。このため拡張期血圧が高いだけですぐ降圧薬が必要なわけではありません。具体的には検診で拡張期血圧が85~90㎜Hg前後に上がってきたら生活習慣を見直しましょうリバーシブルな状態ですので服薬が必要にならないこともあります。それでも収縮期血圧が140㎜Hg を超えてくる場合に、医療機関での相談を考えていただくことでよいでしょう。肥満の改善が難しい、仕事はつらいがなかなか調整や転職はできないなどの事情のある方も思い切って薬物療法をお勧めします。

<受診、治療を迷っているみなさんに>

 10-20年単位で放置すると、動脈硬化が進行します。そうなると脳・心血管の病気を発症しやすくなることはもちろんですが、お歳をとってから血圧の変動も大きく転倒しやすくなる・認知機能低下のリスクも高まります。外見の若さも大事ですが血管をしなやかに保てているか意識してあなたの血圧を見直してみましょう。薬に頼りたくないと思われる方もおられるますが、①血管の老化を防ぐデータのある優れた降圧薬・高脂血症薬を②国家資格者の助言・副作用チェックのもとに③医療保険で安価に利用できるとポジティブにとらえていただくとどうでしょうか。残りの人生が長い方ほどNISAやiDeCoよりも優先するべき自分への投資といえるでしょう。

2026/03/09 花粉症の症状を緩和するための工夫

 花粉症のシーズンが本格化してきました。正式には季節性アレルギー性鼻炎・結膜炎と呼びます。ずっと続くわけではないにしてもつらい症状で悩まれる方も増える時期です。


 最近の薬剤は眠気も少なく効果も持続するものが多いですが、それでも外出時にはマスクやメガネで厳重にガードしていても、”朝起きると目やにがひどい””夜間鼻が詰まって眠りにくい”といった経験をされる方も多いのではないでしょうか。外出先から帰宅した人の服について持ち込まれる花粉は無視できない量であるといわれています。ウールやフリースのような素材は花粉をしっかりキャッチしてしまうため、ツルツルした素材がよいといわれています。全身レザージャケットを着込んでナイロン製の帽子を深くかぶり、大きめのサングラスにマスク姿で出歩けば、家に持ち込む花粉の量は劇的に減らせるでしょう。しかし暖かい日はレザージャケットは蒸れて暑そうですし、だれもが似合う装いではありませんね。私だと不審人物に思われてしまうかもしれません。


 花粉を家に持ち込まないために自宅にエアシャワーがあったらいいのにと調べてみました。強風でチリやホコリを吹き飛ばす設備で、食品工場の入り口や手術室の前室でよく見るあれです。花粉症に対する効果を検討した医学論文は見当たりませんでしたが、理論上は効果は期待できそうです。実際に最近の注文住宅では、粉塵対策として小型エアシャワーを玄関にビルトインできるそうです。さらに、都心の高級マンションでは共用部分に標準装備されている物件もあるようです。


 現実的には設置費用や定期的なフィルター交換などの維持費はかかりそうで、 ”玄関に入る前に上着をバサバサと払う””帰宅したらすぐに洗顔や着替えをする”といった、地道な水際対策で乗り切ることが現実的でしょう。花粉症の薬物治療も重要ですが、症状の強い家族がいる方は、花粉をなるべく家に持ち込まない工夫をして、この季節を少しでも快適にお過ごしください。

2026/03/02 トムとジェリーも恐れたはしか

はしかは麻の実のような皮疹があることから正確には麻疹(ましん)といいます。麻疹ウィルスの伝染力は高く、患者が発生すると前後の動向をニュースになるほど公衆衛生上の脅威です。さらに、重篤な肺炎や、治癒後数年から数十年経ってから亜急性硬化性全脳炎という深刻な後遺症を引き起こす可能性もあります。トムとジェリーでも、はしかにかかったと勘違いしたトムが怯える描写があります(1949年公開「ウソをついたら」)。ER救命救急室というドラマでも予防接種をしていない男の子が麻疹肺炎で気管挿管を受けるシーンがありました。

2025年以降に米国では麻疹が流行しており今年に入っても1000人を超える感染者が出ているそうです。米国は2000年に麻疹の排除に成功していましたが、公衆衛生行政の停滞や個人的な理由によるワクチンの接種忌避が増えているそうです。日本は2015年に、国内から麻疹ウィルスを排除した状態であると認定されています。多くの国民はすでに感染した経験があるか、予防接種を受けて免疫を持っています。しかし、日本では麻疹・風疹(MR)ワクチンは、1歳児と就学前の計2回の定期接種であり、未接種の赤ちゃんにとって、はしかは依然として脅威です。

医師として診断した経験はありませんが、1980年代前半に当時ワクチン未接種だった私の弟が麻疹で入院しました。私は1回目の予防接種直後であったためか発症しませんでしたが、年間100人近くが亡くなっていた時代です。幸い弟は後遺症もなく今も元気にしています。

現代は、国際情勢なども含め先行きが不透明で不安定な時代です。しかし、ワクチンの有効性と安全性は、長年の歴史によって確かに証明されています。自分自身の身を守るため、そして、まだ免疫を持たない小さな命を守るためにも、今一度、ご家族のワクチン接種に漏れがないか確認することが大切です。

(トムとジェリー 1949 より   最終的に2匹とも麻疹を発症し隔離されています)

2026/02/25 昨年いただいた胡蝶蘭が咲きました


 昨年の5月に開院祝いでたくさんの胡蝶蘭をいただきました。

  翌年に再度花を咲かせることは慣れた方でないとなかなか難しいようです。自宅に持ち帰った紫の胡蝶蘭が咲きました。たまたま水槽の隣で絶妙な湿度であったのがよかったのかもしれません。開院直前のあわただしかった日々、一転その直後の患者さんも少なく閑散とした日々が思い出されました。

 また春から初心を忘れず日々を過ごしていきたいものです。

2026/02/20 外科医の働き方と「分業」のジレンマ

2026年春からは高難易度の手術やロボット支援手術を行う医師の待遇が改善されるようです。私自身も脳外科や心臓外科といった外科系への憧れがありましたが、研修医時代に自分にはついていけないかな…と諦めました。今でも外科の先生方に対して、畏敬の念と少しの後ろめたさを抱いてはいます。


内科も夜間の呼び出しはありますが、緊急カテーテル(循環器科)や緊急内視鏡(消化器科)などを除けば一人で対応が可能なケースがほとんどです。一方で外科はひとたび緊急手術となれば、上級医+若手(麻酔科医、手術室看護師を含む)が呼び出され術前診察から説明、手術、そして術後管理と、翌日まで続く長時間勤務を強いられます。海外では、手術と術後管理を分業化したり、交代制を徹底したりと労働環境が日本より整備されていると聞きますし日本でもチーム制の導入など働き方改革の流れはあります。しかし、外科医には「自分で執刀した患者さんは自分で診る」というカルチャーが根付いており、完全な分業制への移行にはまだ時間を要するように思います。


経済学の父、アダム・スミスは、ピン工場の例を用いて分業による生産性向上を説きました。しかし同時に、過度な分業による弊害についても指摘しています。同じ作業の繰り返しは、仕事への意欲を奪い人間性を損なう危険性があると警告しました。この考え方はのちの労働疎外という社会主義思想につながりました。飲食店で例えてみると、個人飲食店のマスターのように食材選びから味わうお客さんの顔が見える立場と、大きな飲食店の厨房で各人担当する工程が決まっているのでは、後者の方が、仕事というより労働を強いられている感覚に陥りやすいのではないかと思います。これを医療に置き換えると外科医が手術だけを行い、術後管理以降はすべて麻酔科や内科に任せるシステムになったとします。診療効率は上がり患者にとってもメリットがありそうですが、極端な分業化は外科という仕事の魅力も半減してしまう恐れもあります。いくら手術が好きな外科医であっても、術後の回復過程や、退院して元気にしている患者さんとの触れ合いは、大きなモチベーションになっているのではないかと思います。


予防ができる生活習慣病とは異なり、外科救急疾患は予測困難なことが多いです。だからこそ、外科医の自己犠牲に任せるのではなく、心身ともに健康に働けるような制度、待遇の充実に期待しています。また、制度だけでなく意識の変革も必要です。医療を受ける皆さんも、周囲の医療者も、過酷な勤務を「外科医を選んだのだから当たり前」と思わずに、リスペクトを持ち、外科医を大事にしていくことが大切ですね。

2026/02/17 冬にしみいる常夜鍋


若いころはすき焼きやふぐ鍋といった豪華な鍋に惹かれるものですが、年を重ねると、水炊きやおでんの滋味深さがわかってくるものです。

中高年になってその良さに気づいたのが常夜鍋です。毎日食べても飽きない、あるいは宵から夜中までいつでも美味しく食べられることから、常夜鍋、宵夜鍋と呼ばれます。基本は家庭料理ですが、昆布だしに豚肉と青菜をくぐらせるだけのシンプルなおいしさは格別です。北大路魯山人や池波正太郎、向田邦子といった食通や文豪たちも、この鍋を愛したそうです。

栄養面でも理にかなっており、豚肉は疲労回復やアルコール代謝に必要なビタミンB1が含まれています。 そこに青菜のビタミン類、豆腐のたんぱく質が加われば、酒飲みにとって最強の養生食となります。ポン酢のかけすぎによる塩分が気になる方は、向田邦子流の食べ方がおすすめです。彼女はレモン汁と醤油でさっぱりと楽しんでいたそうですよ。


2026/02/13 喉の奥にイクラが見えたら…

現在広島でもインフルエンザB型が流行しています。

インフルエンザが流行しているシーズンに病院を受診すると、医師が喉の奥をライトで照らし、「あ、これはインフルエンザですかね~?」と指摘された経験はありませんか?医師は、のどの奥に現れる特有の変化を探しています。

 

1.    インフルエンザ濾胞とは?

インフルエンザウイルスに感染すると、のどの突き当たりにあるリンパ組織が独特の腫れ方をします。これをインフルエンザ濾胞と呼びます。具体的には、いわゆる、のどちんこをくぐった奥の壁に、光沢のある赤い粒が浮き上がって見えます。2007年に宮本昭彦先生(茨城県桜川市、宮本内科医院)が報告したこの所見は、その見た目から「イクラサイン」とも呼ばれています1,2

 

2,なぜこのサインが重要?

通常の診断で用いる迅速検査キットは、発熱から12時間未満などの早い段階では本当はインフルエンザなのに陰性と出てしまうことがあります。一方でインフルエンザ濾胞は発熱直後から現れることもあります。つまり、検査キットでは判定できない早い段階で診断できる根拠となります。タミフルなどの治療薬は、発症から48時間以内の服用で効果を発揮します。「イクラサイン」をもとに診断治療をすすめることで、早期に症状を改善し、重症化を防ぐ可能性があります。また、患者さんにとっても「今日の検査では確定できないので明日また来てください」と言われて二度手間になる負担が減りますよね。

 

2.    注意点  

もちろん万能ではありません。お子さんや口が小さい方、舌の大きな方は、そもそも喉の奥まで十分に見えないことがあります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の方に見られる咽頭リンパ濾胞の増生(敷石状変化)と似ているため、見極めが必要です。また、時間がたつと融合してしまい、この所見が消失するといわれています。診断においては、インフルエンザ流行期であるか、臨床症状が矛盾しないか、特徴的な色調かどうかの総合的な判断が重要です。

 

最近は咽頭画像からAIで判定する医療機器(nodosa®Aillis株式会社)も登場しています3)

当院でもいつか導入したいと思っていますが、それまでは心の眼を活用して的確な早期診断に努めてまいります。


文献2)より典型的なインフルエンザ濾胞


1) J.Nihon Univ.Med.Ass.,2013;72(1):11-18

2) Postgrad Med J. 2016 Jul 27;92(1091):560–561

3) J Med Internet Res 2022;24(12):e38751

2026/02/10 塩分は控えているつもりなのに…それは薬剤性の浮腫かもしれません

足のむくみ(浮腫)は血管周囲のスペース(間質)に体内の水分が漏れることで生じる症状です。

頻度が高く対応が必要な原因としては心不全や腎疾患、肝硬変、甲状腺機能低下症があります。片足だけの浮腫は静脈・リンパの循環障害なども考慮する必要があります。浮腫の鑑別疾患はまれな病態も含めると多数にわたります。

 比較的頻度が高く、見落とされがちなのが降圧薬であるカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピンなど)による薬剤性浮腫です。血管を拡張することで血圧を下げる薬剤です。特徴として末梢組織の出口血管(静脈)よりも入口(動脈)を強く拡げる作用があるため、末梢組織で血液が渋滞し水分が血管内から間質へ漏れ出すことで浮腫が生じると考えられています。


 カルシウム拮抗薬による末梢性浮腫は見過ごされがちで、不要な利尿薬を増やされたり、厳しすぎる減塩療法を指導されたりと、必要以上の治療を受けておられる方もいます。

 実際に高血圧患者を対象にしたカナダの研究で新規にカルシウム拮抗薬を処方されるとその後に利尿薬の追加処方が増えやすくなるとの観察研究データもあります1)。良かれと思って処方された薬に対して薬が増えてしまうわけですね(処方カスケード:処方のドミノ倒しといわれています)。


 薬剤性浮腫は肝臓の代謝酵素の個人差で生じやすい方がいると考えられています2)

 日常の診療で事前に予測することは困難ですが、以下の項目に当てはまるなら薬剤の影響かもしれません。

  カルシウム拮抗薬を高用量(最大量の50%以上)で服用している。3)

  普段運動が少なく浮腫は足の甲に生じる。典型的には車いす生活など介護を受けている方などに多い。

  明らかな心不全や腎疾患は指摘されていない。

カルシウム拮抗薬は降圧効果が確実で副作用が少なく、球種でいればフォーシームストレート、ゴルフならドライバー、シューティングゲームならノーマルショットのような汎用性が高く、私自身も一番処方しているのではないかと思います。“カルシウム拮抗薬のなかでも末梢性浮腫を起こしにくいものに変える”、“他の降圧薬と組み合わせてカルシウム拮抗薬の高用量を避ける”などである程度対策が可能です4

浮腫で悩んでいる方で該当する方がいれば担当の先生や薬剤師さんに相談してみてはどうでしょうか。


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1JAMA Intern Med. 2020 May 1;180(5):643-651

2Pharmgenomics Pers Med. 2021 Feb 2:14:189-197.

3J Hypertens. 2011 Jul;29(7):1270-80.

4Am J Med. 2011 Feb;124(2):128-35.



2026/02/05 冬の味覚に対する葛藤

20262月現在、広島市でもインフルエンザB型と感染性腸炎が流行しています。

 冬場に病院で救急当番をしていると、カキ喫食によるウィルス性腸炎に遭遇します。自宅で食べたという方もいらっしゃいます。私の親は四国出身で子供のころも食卓にはカキフライしか並びませんでしたので、”自宅で生ガキを食べることってあるの?”と思っていましたが、生粋の広島ケンミンは親戚の間などで贈答したりされたりすることがあるとその後に知りました。

 二枚貝は海水を濾過して微生物を濃縮するため、これを介した感染は経路として有名です。夏はビブリオ菌による腸炎が知られていましたが、2001年に食品衛生法で規格基準が厳格となり現在は減少しています。冬に有名なノロウィルスは、わずかなウィルス量で感染成立するうえ、アルコール消毒が効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が必要となるため、現在でも保育園・施設や家庭内での水平感染で集団感染を起こしやすい厄介な存在です。近縁のサポウイルスやアストロウイルスも冬季の腸炎の原因とされますが、日常臨床での鑑別は困難であり、対症療法も基本的には同様です。

 基本的に数日で改善する病態ですが、若い患者さんでも症状が強いところをみていると私も生食する勇気が持てません。大学院生のころ研究室の学会参加で訪れたサンディエゴは魚介が有名なところで、夕の懇親会で指導教官の先生方の前ですすめられて手をつけないのも無粋なので南無三!と食べましたが、帰りのフライトで調子が悪くならないか心配でなりませんでした。

  幼児のお子さんの感染性腸炎の原因であったロタウィルス腸炎は2011年以降経口ワクチン(ロタリックス®、ロタテック®)の定期接種化により激減しています。ノロウィルスについても開発がされているようで、実用化されたら真っ先に接種を受けて存分にいただいてみたいものです。

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2026/02/03 シフトワーカーにいたわりを

コカ・コーラ社の缶コーヒー・ジョージアのCMで使われた、「世界は誰かの仕事でできている」という名コピーがあります。

夜勤や交代制勤務で働かれている方がたくさんおられます。夜勤を含むシフトワークの弊害は以前から知られており、特定の業務に従事する方には年2回の健康診断が義務づけられています。私も当直回数が多い救急病院に勤務していたころは血圧が高く、翌朝は緊張性頭痛に悩まされていたものです。若いころは平気でも、急に起こされ睡眠サイクルを中断されたり、浅い仮眠しか取れなかったりする業務はある程度の年齢になると厳しくなるものだと痛感しています。


医学的な研究でも、これらは裏付けられています。健康な18〜35歳の成人を対象にした研究では、たった一度の夜勤でも収縮期血圧が3mmHg上昇し、健常者で睡眠中に生じる血圧が日中より低下するDipping現象もみられにくくなるそうです¹)。また、強制的に被験者を昼夜逆転環境にした実験においても、シフトワーク群は菲シフトワーク群と比較して睡眠中の血圧上昇や、炎症マーカーの上昇が見られたといわれています²)。

長期的な影響についても、複数の研究をまとめた報告で”シフトワークは喫煙や社会背景を考慮しても心筋梗塞のリスクを23%、虚血性脳卒中のリスクを5%増加させる”との報告があります³)。さらに、19万人の看護師を追跡した研究でも同様の結果が出ており、特に10年以上続けるとそのリスクは高まるようです⁴)。

インフラ管理、物流、医療福祉、警備、飲食・宿泊施設など深夜営業のお店など、人手不足の中50歳を過ぎても勤務されている方がいます。誰かが担わなければならない仕事があり、結果として体調を崩す職員もいます。私はそのようなお仕事をしている現役世代をサポートしたいという気持ちで日々診療しています。社会を支えてくださっている皆さんにリスペクトを抱いて社会を維持していきたいものです。


1)Physiol Rep. 2025 Feb;13(3):e70231.

2)Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Mar 8;113(10):E1402-11.

3)BMJ. 2012 Jul 26:345:e4800.

4)JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1726-34.

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2026/02/02 郷土の偉人、灘尾弘吉先生

 衆議院選挙の真っ最中ですね。

 戦後を代表する広島の有力政治家といえば、池田勇人、宮沢喜一、岸田文雄元首相、亀井静香元建設相らが挙げられます。そうした中に、灘尾弘吉元衆議院議長(1899-1994)もいらっしゃいます。広島城の堀の西側、エディオンピースウィング広島に面した通りには、竹下登元首相の揮毫による顕彰像が建立されています。

    灘尾氏は江田島町の出身で、国泰寺高校の前身である旧制広島一中から東京帝国大学を経て内務省に入り、その後、自由党から政界入りしました。民主党と保守合同後の自由民主党では旧広島一区から12期連続で当選し、派閥争いから距離を置いた長老として衆議院議長も歴任しました。

内務官僚時代に厚生省設置から関わり、文相の「教科書無償化」、「文化庁の発足」厚相時代の「社会保険庁の設立」、「児童扶養手当の整備」など業績は多岐にわたります。ポリオワクチンの緊急輸入の際も前任の古井喜実大臣の決断を引き継ぎ対応にあたられました。また、国立がんセンターの設立・命名にも関わり、以後公的機関の中核施設を「~センター」と呼ぶようになったともいわれています。2030年に広島駅北に県主導の新病院が完成予定ですが、〇×広島●△医療センターとなるのではないでしょうか。

 灘尾氏や古井氏らが築き上げ、今や空気のように当たり前となった国民皆保険制度は時代と共にその在り方も見直しを迫られています。

民政に尽力された先人たちへの敬意を表して、私たちは日々の臨床現場でなすべき責務を果たしていきたいと思います。

 

2026/01/31 血圧管理の新常識「ナトカリ比」で減塩・排塩

尿ナトカリ比

私たちの体は様々なミネラルの働きによって健康が保たれています。食塩の主要なミネラルであるナトリウムの摂りすぎが高血圧によくないことは有名ですが、実はもう一つ、カリウムというミネラルが重要であることをご存知でしょうか?カリウムには、ナトリウムを腎臓から押し出す働きがあります。

このナトリウムとカリウムのバランスを尿検査で調べたものが 尿ナトカリ比(尿中ナトリウム濃度/尿中カリウム濃度) です。この数値が低いほど、死亡1や脳卒中2などのリスクも低下することがわかっています。


目指すべき数値は?

日本高血圧学会が推奨する理想の数値は2未満です。狩猟採集時代には塩は貴重品でナトリウムが少なく、木の実などでカリウムを多く摂取していたと考えられています。現代社会では急に達成することは難しいかもしれませんが、4未満をクリアすることから始めましょう3。数値の変化を確認するのも励みになるかもしれません。医療機関で測定は可能です。


今日からできる「ナトカリ」改善

ひとことでいえば「ていねいな暮らし」を実践することが大切です。ポイントは置き換えとプラス一品です。

 塩分を「引く」: 食塩以外の調味料の活用、麺類の汁は残す、加工食品を減らす。

 カリウムを「足す」: いつもの食事に、野菜、海藻、果物、ナッツなどを一品プラスする。

これらを組み合わせることで、効率よくナトカリ比を下げることができます。

 

●実践における注意点

腎臓の働きが高度に低下した方、慢性腎臓病と診断されている方は、カリウムの過剰摂取がかえって害になることもありますので、医師に相談したうえで実践しましょう。

 


減らすこと、禁止することばかりを意識するとネガティブな気持ちになりがちになりますよね。

ここはあえて、カリウムをしっかり摂取するポジティブな気持ちを心がけてくださいね。

 


1 N Engl J Med 2014;371:612-623

2 Am J Kidney Dis. 2016 May 24;69(3):341–349

3 Hypertens Res2024 Dec;47(12):3288-3302.

 

2026/01/26 患者が希望する薬剤と医師が勧めたい薬剤とのギャップをどう埋めるか

現在の症状を改善してくれる薬剤、例えばかぜの時の咳止め、花粉やじんましんの時の抗アレルギー薬、腰が痛い時の鎮痛薬は患者さんに処方すると喜ばれます。

一方で医師の立場から患者さんに服用してもらいたい薬剤は長期内服することで予後を改善する効果のある降圧薬、糖尿病薬、高脂血症薬、抗血栓薬、骨粗しょう症薬などの薬剤です。これらの薬は効果が短期間ではわかりにくく、比較的新薬が多く高価であったりするので、また薬が増えるんですか…、と嘆かれる方も多いです。

このように患者さんが希望する薬剤と、医師が服用を勧める薬剤とにはギャップが生じがちです。費用対効果の少ないとされる”低価値医療”は保険適応外から外そうというも議論されており、近い将来薬局で患者さんが購入できる薬は増えるかもしれません。AIも発達し、医師という専門職の重みは相対的に低下することは避けられないかもしれません。

その中で、必要な薬剤は理解して続けていただき、不必要な薬剤は漫然と処方しないよう患者さんとのコミュニケーションがますます必要になっていくだろうと感じています。

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2026/01/23 血圧が高くて不安なとき、どうすればいい?

1月20日ごろは大寒といって、冬の寒さが最も厳しくなる時期です、普段落ち着いている方も血圧も高くなる方が多い時期といえるでしょう。病院で当直をしていたころは、「いつもより血圧が高いんです」と不安になり、救急外来を受診される方がいらっしゃいました。多くの方は病院に来てスタッフの顔を見て安心すると、自然と血圧が落ち着くケースがほとんどでした。

血圧が高い時に無理に動くと、かえって興奮して血圧が上がってしまいます。もしも、血圧が高いこと以外に症状がないのであれば、まずはご自宅でリラックスして休んでいただくのが一番の対処法です。


ただし、以下の症状がある場合は緊急事態の可能性があります。救急車を呼ぶか、至急医療機関へ向かうことも考えてください。

  • 下の血圧(拡張期血圧)が120mmHgを超えている
  • これまでに経験したことのない強い胸痛、背部痛、頭痛がある(血管の破裂などが疑われます)
  • 突然の意識障害、手足の麻痺、ろれつが回らない(脳卒中など中枢神経の症状)
  • 息苦しく、横になるより座っている方が楽(心不全による起座呼吸)


 血圧が高いと、心配性の方は気になって何度も測ってしまうかもしれません。しかし、その焦りがさらなる血圧上昇を招くこともあります。
たとえ180/100mmHgまで上がったとしても、多くはすぐに正常値まで下げる必要はなく、逆に急激に下げることがかえって良くないこともあります。

人間の体は機械ではないため、血圧は常に変動します。「血圧は変動するもの」と理解し、日頃からかかりつけ医とそれぞれの許容できる血圧(合併症のあるなしによって異なります)について、相談しておくことが大切です。