
例年より早く、9月の段階でインフルエンザA型の流行が確認されています。広島市の感染症週報をみると、H1N1(昨年秋流行)とH3N2 (年末流行)のいずれも混在しているようです。「いつ予防接種を受けたらよいでしょうか」 「今すぐ打つと、早く打ちすぎると真冬に効果が切れてしまわないでしょうか?」 といった疑問を踏まえ、今年の流行状況に合わせた考え方についてご説明します。
<注射型ワクチンの効果期間は約4〜5か月>
インフルエンザワクチンは、接種してから十分な免疫(抗体)ができるまでに約2週間かかります。その後は効果が約4〜5か月持続、ただし後半につれて徐々に低下していきます。
通常のシーズンであれば、流行のピーク(12月〜2月)に合わせて10月下旬〜11月中旬に接種するというのが一般的な目安でした。しかし、今年のように9月から流行している場合、早めの接種を検討いただく価値はあります。
<2回接種という選択肢>
通常13歳未満のお子さんはインフルエンザに対する免疫記憶が弱いことを想定して2回接種を行います。日本では13歳以上の方は原則1回接種が標準的ですが、医学的に2回接種が禁止されているわけではありません。大人であっても敢えて2回接種は有効で、ブースター効果で高い免疫レベルが長持ちし、春先の流行(B型など)までカバーが期待されます。以下のような方には、2回接種が積極的におすすめされます。
●糖尿病・呼吸器疾患・心疾患・がん治療中などの基礎疾患をお持ちの方
●介護が必要な方をお世話しているご家族
●教育・医療介護の関係者の方
●高校・大学受験生やそのご家族
●小さいお孫さんと同居したり、お世話を頼まれる方
●自営業で休業を避けたい方 (これに私もあてはまりますので、昨年も2回打ちました)
< 2回接種を受ける際の間隔とスケジュール>
2回接種を行う場合、1回目から4週間以上あけて2回目を接種するのがもっとも効果的です。今年の場合は、1回目:10月中旬までに接種しておき、2回目:11月~12月に追加接種を行う方法がよいと思われます。
<流行状況とライフスタイルに合わせた接種を>
●公費負担のない65歳未満の方
当院は9月17日(木)から開始予定です。自費の場合には1回目を3000円、2回目を2500円(いずれも税込み)で設定していますのでご相談ください。
●公費負担のある65歳以上の方
65歳以上の方の接種(自己負担1600円)は行政によって実施期間が決められています。 9月10日の通知で広島市の予防接種が前倒しになり、10月1日(木)から開始可能になりました。1回目を公費で受けていただき、2回目を自費で接種することもご検討ください。気になる方は、1回目を9月中に自費で、2回目を公費で接種することも可能です。
●19歳未満でフルミストを接種する方
フルミストは持続期間が長く、できるだけ早めの接種でよいと思います。ただし接種直後に鼻腔で抗原検査をするとインフルエンザ検査で本来陰性であっても陽性が出てしまい、本当に感染しているか診断に悩むことがあります。流行のピークを避け、少し前に接種しておくことが望ましいです。
インフルエンザは予防はもちろんですが重症化させないことが何より重要です。身の回りで流行が始まっているなら早めの接種を、長期間の防御力を維持したい場合は、2回接種も視野に持病の有無や生活環境、ご予定に合わせて最適なスケジュールをご提案いたします。

(アテネの学堂、ラファエロ・サンティ)
私が卒業した高校は少しユニークな方針で、1年生の必修の世界史の授業は先史時代からではなく、14-15世紀のルネサンス期・大航海時代から始まりました。大学入試に出やすい近世以降に時間を割くためという現実的な理由もあったのでしょうが、今振り返ると、”古代~中世は世界史を選択する生徒が学べばよく、すべての生徒に近代合理主義、グローバリズムが生まれた時代から世界史に興味を持ってほしい”という社会科の先生方の親心があったのではないかと感じています。結局私は日本史選択でしたが、ルネサンス時代には今でも特別な思い入れがあります。
後年にイタリアへ旅行した際にバチカン市国を訪れる機会がありました。バチカン宮殿では、システィーナ礼拝堂の最後の審判(ミケランジェロ)とならんで、ラファエロによるフレスコ画”アテネの学堂”を観ることができます。ルネサンス期に規範とされた古代ギリシャ・ローマの哲人たちに加え、ダ・ヴィンチやミケランジェロといった同時代のスターたちが一堂に会して談論風発している様を描いたこの作品はルネサンス絵画の中でも一番のお気に入りです。
これは余談ですけれども、このときバチカンでタレントの出川哲朗さんと偶然すれ違いました。チャンスをうかがって握手をお願いすればよかったと思っています。

さて、ここで現代の医療に関連する話です。2014年から糖尿病に対して使用されるSGLT2(sodium–glucose co-transporter 2 )阻害薬という薬剤があります。
尿の作られる過程において、まず腎臓上流(糸球体)でブドウ糖や蛋白・アミノ酸が含まれる原尿が血液から濾されて作られます。下流の近位尿細管でそれらを体に再度取り込み最終的な尿となります。ですので健康な方は尿に糖や蛋白が生じることはありません。尿細管のブドウ糖輸送体(ブドウ糖を出し入れするドア)の阻害作用を持つSGLT2阻害薬は、取り込まれるはずのブドウ糖を尿へ排泄する効果があり、結果として血糖を下げる効果があります。
SGLT2阻害薬はこの10年間に、血糖そのものを下げる効果よりも心不全や慢性腎臓病の進行を強力に抑制するプラスアルファの効果が評価されるようになりました。現在では糖尿病内科よりも循環器内科、腎臓内科にとって大事な薬剤になっています。
SGLT2阻害薬は、もともとはリンゴの皮に含まれるフロリジンという物質の誘導体です。尿中のブドウ糖排泄を増やすというフロリジンの効能は100年以上前から知られていたものの、構造が不安定であったりそのまま薬にするには副作用上問題となり、安全な薬剤として応用されるのは2014年まで待たねばなりませんでした。
”1日1個のリンゴで医者いらず(An apple a day keeps the doctor away)”というウェールズの古いことわざの通り、リンゴが体に良いことは古くから知られていました。その知恵が現代科学により多くのガイドラインで推奨される標準治療に受け継がれたといえます。
先人の知恵から創薬を実現した研究者たちの温故知新、ルネサンスの精神の賜物と言えるのではないでしょうか。私たち現代人も、古人の知恵からまだまだ多くのことを学ぶことができるのかもしれませんね。

朝夕が少し過ごしやすくになったかと思えば、今度は低気圧の発生によって台風や局地的な豪雨が続く季節です。
低気圧が近づくと頭痛やめまいで調子がすぐれなくなる方がおり、最近では天気痛や気象病として広く知られるようになりました。科学的に一貫したデータが完全に揃っているわけではないため正式な病名としてのコンセンサスは得られていませんが、何らかの病態があることは確かであろうと思います。
この気象病という概念について、科学的・基礎医学的なアプローチで熱心に研究されている先生がいらっしゃいます(愛知医科大学の佐藤純先生)。先生の研究では、以下のようなことが明らかになっています。
○気圧低下が痛みを増強させる 1)
神経痛を抱えるラットを人為的に気圧の低い環境に置くと、痛みをより強く感じやすくなることが示されました。
○耳の奥が気圧センサーになっている2,3)
耳の奥(内耳)にある耳石器という器官が、微小な気圧変化を感知するセンサーとして機能していることが分かりました。気圧が下がるとここから自律神経系へストレス信号が伝わり、不調を引き起こすメカニズムが細胞レベルで裏付けられています。
○天気と痛みの関係に関する実態調査 4)
スマートフォンアプリ等から得られた症状報告データを解析し、気象的要因と頭痛などの発症リスクとの間にある相関関係を、疫学的に証明しています。
かつて、気象病は原因のわからない漠然とした不調として扱われ、なかなか周囲に理解されないことも多かったと聞きます。このようなユニークな研究によって少しずつ知見が増えていくことで、「自分の不調には理由があった」と救われる方もいらっしゃるはずです。確立した治療法はありませんが、”五苓散(ごれいさん)”などの漢方薬が有効と考えられています。これは、内耳や中枢神経にあるアクアポリンという水分の通り道に作用して、体内の水分バランスを整えるためではないかと言われています。
日本では、熱中症への警戒もさることながら、この低気圧トラブルも毎年のようにやってきます。皆さんのお訴えを”気のせいじゃないですか?”と片づけることなく、医学的視点を持ちながら、上手に回避し、やり過ごすためのコツをお伝えしていきたいと考えています。天候による体調不良でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
1)Neurosci Lett. 1999;266(1):21-4
2)Eur J Pain. 2010 ;14(1):32-9.
3)Sci Rep.2025 ;15(1):44525.
4)日生気誌.2023;60(1):15-22

先日、産業医の勉強会に出席してきました。北九州の産業医科大学からお越しいただいた講師のお話で、治療と就業の両立支援の推進についての内容が印象に残りました(産業医科大学両立支援科学准教授 永田昌子先生)1)。
がんや心筋梗塞、脳卒中といった大病を経験された就業世代にとって、「退院はしたけれど、元の職場で以前のように働けるのだろうか」「体力に自信がない中で、会社にどう復帰を伝えればよいか分からない」「退職を促されたらどうしよう」といった悩みはつきものです。せっかく治療が落ち着いてきたにもかかわらず、不安や焦りを感じてしまうことがあるでしょう。
病院勤務医であったころ、腎機能が悪化してしまい、今後週3回の血液透析通院が余儀なくされる患者さんが、家族を抱えてそれまでの働き方が継続できなくなることを思い悩んでおられたことを思い出します。
中小企業での運用がうまくなされるかという点は懸念はあるものの、大病を経験しても働き続けるためのサポート体制が整いつつあります。
① 職場の努力義務
〇相談窓口の設置: プライバシーも尊重しつつ、安心して相談できる体制づくり
〇柔軟な働き方の導入: 通院のための休暇制度や、時短勤務、テレワーク、時差出勤など
○安全の配慮:合理的な配慮など、体力や治療スケジュールに合わせた働き方の整備
〇両立支援プランの作成: 主治医や産業医と連携し、一人ひとりの状態に合わせた職場復帰の計画を立てること
さらに、こうした企業・事業所の取り組みを後押しするため、国からの助成金制度も拡充されているようです。
② 医療機関に対して職場との連携を評価
〇療養・就労両立支援指導料の拡充:2026年から病院主治医からの情報提供が診療報酬として手厚く評価されるようになりました。多忙な病院勤務医にとって書類作成は負担ではありますが、この点がしっかりと評価されるようになったのは喜ばしいことです。従業員10人以上の事業所などといった要件はあるものの、2026年から対象となる病気の種類が問われなくなったため、より多くの方が対象となっています。
〇相談窓口である両立支援コーディネーターの養成:看護師、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師に門戸が開かれてオンライン研修で毎年8000人増えているそうです。各病院や総合支援センター2)で対応してくれるスタッフも増えています。
制度として手厚くなった背景には、生産年齢人口の減少により65歳以上で働く方の増加があります。また、医療の進歩によりがんも症例によっては長く付き合っていく病気へと変化し、疾患を抱えながら働く方が増えていることも大きな要因です。
重篤な疾患の就業判断においては病院の主治医の判断ですが、ご自身やご家族、あるいは同僚の方が急病を発症し、就業再開に不安を感じている方がおられましたら、当クリニックでも微力ながらアドバイスを差し上げられたらと思います。
参考URL
1)産業医科大学両立支援科ホームページ https://ryoritsu-uoeh.com/
2)広島産業保健総合支援センターホームページ https://www.hiroshimas.johas.go.jp/support/

広島県は人口流出が顕著な県であるといわれています。
当院のある牛田地区もいわゆる文教地区のため、県外へ進学する高校生も多く、そのまま東京や海外で離れて暮らす子供世代の方が多いのではないでしょうか。
そのような中で、お盆の時期は久しぶりに顔を合わせる大切な機会です。お孫さんが小さい頃は、一家で帰省すると張り切ってもてなしをしてくれていたご両親も、お孫さんが大きくなって帰省する回数が減ってくるとしばらく会わなくなり、衰えを感じることが多いのではないでしょうか。
普段は電話やSNSで元気な声を聞いていても、いざ実際に会ってみると「あれ? なんだか少し小さくなったかな」「歩くのがゆっくりになった気がする」と変化にハッとさせられることがあります。
帰省時にさりげなく確認しておきたいご両親の変化をご紹介します。
<住まいと暮らしのチェックポイント >
〇部屋の片付けや掃除が行き届いているか
以前に比べて部屋が散らかっていたり、ゴミ出しが滞っていたりする場合、認知機能の低下を反映している可能性があります。
〇冷蔵庫の中身
賞味期限が大幅に切れた食品や、同じ食材・調味料が何個も買い置きされていないか確認してみましょう。買い物の管理や献立を考える負担が増えているサインかもしれません。
〇外出の頻度や日頃の交流
趣味や近所との交流が続いているか、外出の機会が減っていないかも気にかけてみましょう。
<食事と身体のチェックポイント>
〇 食事の量や内容の変化
「最近あまり食欲がない」「固いものが食べにくくなった」「食事中にむせることが増えた」といった変化はありませんか。噛む力や飲み込む力の低下、体重減少(やせ)は、全身の筋力が落ちるフレイル状態の入口になります。歯科などで義歯を調整することで改善することもあります。
〇立ち上がりや歩行の様子
歩くときにふらついていないか、椅子から立ち上がる際に手すりや机に強く頼っていないか観察してみてください。また、履き慣れた靴の底が極端に偏って減っている場合も注意が必要です。
〇服薬の管理状態
飲み残しの薬が大量に溜まっていませんか。医療機関でも服薬状況を把握するようには努めてはいますが限界もあります。
<心配に思ったら>
もしも帰省中に心配な変化に気づいたら、ご両親を過度に問いただしたりせず、「最近体調はどう?」「次の健診はいつ?」と優しく声をかけてみてください。
〇かかりつけ医
ご両親が通院している医療機関や服用している薬を把握しておきましょう。受診の際、ご家族が気づいた変化をメモして持参すると診察がスムーズです。持病がなくかかりつけ医がない場合は、年に1回程度は健康診断や血液検査を受けるよう勧めてみてください。
〇地域包括支援センター
各市町村に設置されている高齢者の総合相談窓口です。介護保険の申請や、地域で利用できる福祉サービス、予防事業などのアドバイスを受けられます。
〇近くに住む親戚
近くにお住まいのおじおば、いとこはいざというときに心強い相談相手になってくれますので億劫がらずに菓子折りは持っていきましょう。
お盆の帰省は、ご家族の健康とこれからの暮らしについて温かく見守り、備える機会です。
何か変だなと思ったら、取り急ぎお電話でも結構ですので、お気軽にお近くの医療機関・相談窓口にご相談ください。

日本では気温の高い夏季に血圧が低くなります。上:60歳未満 下:60歳以上
4)BMJ Open 2018;8:e017351 より
毎年、暑い時期になると、高血圧歴の長い高血圧ベテラン患者さんから「血圧が低くなってきたので、薬を減らせませんか?」と相談いただく機会が増えます。当院でも、4割くらいの高血圧患者さんが季節に合わせて降圧薬を調節されています。何年か見ている患者さんであれば、6-7月の初めあたりから私の方から減量を提案することもあります。
<注意すべきポイント>
夏場に血圧が下がるのは身体の生理的な体温調節機能によるものですが、特にご高齢の方はその変動を受けやすいといわれています。
① 転倒と急性腎障害
血管が拡張し、発汗の多い夏場は、血圧が下がりすぎてしまうことがあります。特に立ち上がった際に急激に血圧が下がり脳への血流が一時的に低下する起立性低血圧を起こすと、めまいやふらつき、転倒外傷につながります。
また、低血圧・脱水が高じると、急性腎障害の危険性が高まります。国際腎臓学会の2026ガイドライン案でも、屋外作業従事者(農業や建設業など)は急性腎障害のリスクが高いと明記されており、中米や南アジアで見られる原因不明の慢性腎臓病の一部は、繰り返す炎暑による脱水が原因ではないかとされています1)。これは高齢者ばかりでなく、スポーツをする未成年の方や炎天下で作業される方においても注意が必要です。
② 昼夜の変動
一方で、「昼間の血圧が下がっているから」と自己判断で薬を完全に中断すると、日中は低いのに夜間や早朝は高いという状態に陥ることがあります。夏季は熱帯夜による睡眠障害や不快感により、夜間血圧がむしろ上昇しやすい(non-dipper / riserと呼び、心血管イベントのリスクとなります)特徴があります2)。また、入眠時は時に冷房の風が心地よくても朝方には深部体温が下がるため、早朝の血圧上昇には注意が必要です。
③ 屋内と屋外の温度差
屋外は暑い一方、商業施設などは設定温度が低くキンキンに冷えていることがあります。エアコンによる急激な温度変化は血圧や自律神経の変動に影響するとされています3)。ご高齢の方に限らずこの寒暖差に体調を崩す方も多いのではないでしょうか。
外来の方と異なり、病院に入院していたり、施設に入所されている要介護状態の方は生活環境が整っているため、血圧が安定しやすい傾向にあります。私も病院勤めだったころにはあまり意識していませんでしたので、入院患者さんを専ら見ている若い医師や医療スタッフはこういった配慮までは難しいかもしれません。

温暖化に伴う体温調節障害によって生じる腎障害の概念図
1)Kidney Int Rep 2024; 9, 2844–2847を改変
<夏場に血圧を安全に保つために>
① 朝と夜の家庭血圧を比較する
診察室での一瞬の血圧だけでなく、起床直後と就寝前の血圧の動きを確認することで、夜間高血圧や日中の下がりすぎを正しく把握できます。
② こまめな水分 + 適度な塩分補給
喉の渇きを感じる前に水分を摂ることが基本です(活動量に応じて適宜調整してください)。ただし、中等度以上のうっ血性心不全の既往や人工透析で治療中の方は、適切な水分・塩分制限量の調節域が極めて狭く一概に設定することは難しいことが多いです。浮腫・体重の推移などを指標にしていただくのが良いでしょう。
③ 減薬・処方変更は遠慮なく主治医と相談を
日常的に上の血圧が100〜110 mmHg台前半まで下がっていたり、立ちくらみをたびたび感じたりする場合は、降圧薬の減量や種類・服用時間の変更を検討するタイミングです。自己判断で服薬を中止せず、医師や薬剤師にご相談ください。降圧薬の中でも脱水時に効果が増強しやすいタイプの薬剤(サイアザイド、レニンアンギオテンシン系阻害薬、アルドステロン受容体拮抗薬)から優先的に休薬するなど対応を行います。
④ 具合が悪いときは無理せずに
3日以上続く下痢や食欲不振があるとき(シックデイ)には発汗と相まって水や塩の摂取量も低下しているため、律儀に降圧薬を飲み続けると血圧が下がりすぎてしまうことがあります。体調に不安がある場合は億劫がらずにかかりつけ医にご相談ください。
腎デナベーション(2026年から一部の施設で行われている治療抵抗性高血圧に対するカテーテル治療)や高血圧ワクチン(研究段階)など、今後降圧薬を用いない血圧管理技術が発展していく可能性があります。
しかし温暖化の進む時代に高温多湿の日本においては、血圧変動への細やかな微調整は、私たちかかりつけ医の重要な役割です。気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
1)Kidney Int Rep. 2024 ;9, 2844–2847
2)Hypertens Res. 2021;44(11):1363-1372.
3)Int J Environ Res Public Health. 2014 27;11(3):2472–2487
4)BMJ Open 2018; 8:e017351

7/31 最後に3匹がそろったショットになりました。
8月1日に3匹とも無事飛び立ちました。この3週間で立派なツバメになりました。
数日前から、周囲に親以外の仲間?のツバメ(別の巣で帰った子ツバメも含めて)が飛び回るようになり、巣立ちを見守っていました。この近辺のツバメで群れを作っているのでしょう。

8/01 朝来たときはもう1匹がまだ残っていましたが、昼前には飛び立ったようです。
1日朝の時点では、すでに2匹はいなくなっていましたが、周囲でバタバタと飛んでいたツバメがおり、おそらく先に飛び立った兄弟と思われました。
残った1匹は飛ぶか迷っている、慎重そうな顔をしていますね。昼頃にふと見ると、いなくなっていました。カラスに襲われた形跡はないので、うまく飛び立てたようです。巣もさみしくなりました。

8/03 ふと見ると夕方に里帰り?していました。
しばらくは秋の東南アジアへの渡りに備え、仲間と集団生活をするそうです。数日間は夜だけ戻ってくるそうで、巣は少しそのままにしておこうと思います(8/3の夕立に雨宿りに来ていました)。
楽しみが一つ減ってしまいました。また日本に無事帰ってきてほしいですね。野生動物のためにも、温暖化がこれ以上進まないようにしたいものです。
このたびの熊本地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また、猛暑の中、救援や復旧活動、医療支援にご尽力されている行政、インフラ関係者、そして医療機関の皆様に対し、深く敬意を表します。
この暑い時期の災害で思い出すのが2018年の西日本豪雨です。私は被災地に近い呉市内の病院に勤務しており、病院として被災した患者さんを一時で受け入れていました。病院自体に直接的な被害は免れたものの、周囲の地域は断水など非常に厳しい状況であったことを鮮明に記憶しています。災害当初は陸路が寸断されていたため、広島からフェリーで呉まで通勤し、病院に2泊して再びフェリーで帰宅するという生活を送っていました。今回は豪雨災害と異なり、地震では広範囲にわたって甚大な被害が生じており、被災地の皆様が直面されているご苦労やご不安は、私の経験などとは比較にならないほど計り知れないものと拝察いたします。
災害の急性期には、外傷を中心とした疾患への対応やトリアージが重要となるため、救急医や外科医の活躍が求められます。その後、時間の経過とともに循環器疾患、感染症、精神疾患(うつ、PTSDなど)の発症が増えるとされており、内科や精神科によるケアが必要になります。循環器疾患のうち、高血圧関連疾患(脳卒中、心筋梗塞・狭心症、大動脈解離、心不全)は災害発生直後から増加し、そのリスクは生活環境が改善するまで継続するとされています。そのため、もともとリスクの高い方への継続的な支援が欠かせません。
一方で、これまで高血圧などの持病がない方でも発症する可能性があるのが、たこつぼ心筋症と肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)です。強いストレスによって発生直後から見られるのがたこつぼ心筋症であり、肺塞栓症は車中泊や避難生活などで深部の静脈に血栓が生じてから発症するため、災害発生から3日目以降に増える傾向があります。これらの疾患は、中高年以上の被災者であればどなたにでも起こる可能性があります。
当地域もいつ同じようなことが起こるかわかりませんので、よその出来事と考えずに準備しようといつも思います(が、時間が経つとつい怠りがちになってしまうのですが)。被災地の1日も早い復旧と、皆様に平穏な日常が戻りますことを心よりお祈り申し上げます。
※ 精神的なストレスによる交感神経の亢進による急性の心不全症状で、突然生じる胸痛,呼吸困難などで,急性心筋梗塞と類似した急性心不全症状を呈します。高齢女性に多く、原則として回復する病態ですが専門的な管理が必要です。
参考文献
災害時の循環器疾患:内科診療の留意点 https://www.naika.or.jp/saigai/kumamoto/circulatory/

7/25 夜間は親ツバメが巣の表側で見張りをしています。

7/27 喉の赤い色も目立つようになり、体格も大人に近くなってきました。ときどき羽を広げる練習?をしています。
もう1週間くらいで巣立ちになりそうです。よそや親せきの子供さんの成長は早く感じるように、卵の段階からここまではあっという間ででした。

7/17 覗くと、一斉に伏せて隠れていました。

7/23 暑い日中も顔をのぞかせています。

先日、山口県の秋芳洞を小学生の時以来、久しぶりに訪れました。広島の小学校では修学旅行の定番にもなっていると聞きますので、一度は訪れたことがある方も多いのではないでしょうか。とはいっても、なかなか何回も行く方は少ないとは思います。
かつて摂政宮時代の昭和天皇が行幸され、地元の人々に「滝穴」と呼ばれていたこの鍾乳洞を「秋芳洞」と命名されたそうです。その神秘的な光景は、映像作品やゲームに登場する洞窟・ダンジョンのモデルとして、これまで多くのクリエイターにインスピレーションを与えてきたものと思われます。滅多に感動することはない50歳手前の私も、神秘的な光景に見入ってしまいました(中国地方の観光地では鳥取砂丘と秋芳洞はスケールが別格だと思います)。
目線の低い子供の目には、大人が見る以上に雄大な景色として映るでしょうから、子供にとっても深く印象に残る体験になったと思います。もっとも、長い洞内を往復するのはかなり疲れたことでしょうが。
夏休みということもあり、観光客で賑わいを見せていました。周囲の土産物屋も昭和~平成レトロ感があって味がありました。何よりよかったのがこの大暑の時期であっても洞内は涼しくて快適であったことで、気温は年間を通じて17〜18℃と一定に保たれているそうです。これは、冷たい空気が下流の出口から流れ出すことで洞内が陰圧になり、上流の縦穴から引き込まれた外の暖かい空気が地下水などで冷やされる、という自然のシステムによるものだとか。
まさに真夏の観光地として好適でしたが、地上の秋吉台はあまりに暑く今回は散策を断念し次の機会としました。洞内は足元が暗く段差もあるため、自分が70歳を過ぎたら、もう一度来られるだろうかと少し考えてしまいました。お孫さんと一緒に訪れるご年配の方は、足元にお気を付けください。

強い日差しが降り注ぐ季節となりました。日傘は日焼け防止目的で女性が使うものと感じている男性の方もまだ多いかもしれません。
当時勤めていた病院の院長(ベテランの脳神経外科医)が”夏は日傘は手放せないね~”と愛用されていました。それ以来夏の暑い時期に限って時々利用するようになりました。
日傘をさすと、頭部周辺の暑さ指数(WBGT※)を約1.8℃近く下げることができます。環境省の実証実験でも、日傘の使用で発汗量が約20%減少することがわかっています。炎天下を無防備に歩くと、いつもよりも心拍数が上がり、体力を激しく消耗します。炎天下での活動時に日傘を使用することで、心拍数の急激な上昇が抑えられる傾向が確認されています。
バッグに忍ばせておけるように折りたたみタイプがおすすめです。選ぶ際は以下のポイントを確認してみてください。
①遮熱効果を重視: 紫外線(UV)カットだけでなく、熱を遮る「遮光率99%以上」「遮熱加工」と書かれた生地のものが、涼しさを最も実感できます。
②晴雨兼用を選ぶ: 最近は紺や黒など、スーツに馴染むシンプルな晴雨兼用傘が多数販売されています。急なゲリラ豪雨にも対応できます。
③最近はクーラーファン付きの日傘などもあるようです。
日傘という持ち歩く日陰に入るだけで体感温度が下がり、目的地に到着した時の疲労感や、汗だくになる不快感が軽減されるでしょう。今年の夏も厳しい暑さが予想されます。脱水や暑さで体調に不安を感じた際、夏バテが長引くような場合にも当院までお気軽にご相談ください。
※ WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)とは、気温・湿度・輻射熱(日差しによる熱)を総合的に評価した、熱中症予防のための国際的な指標です。

7/4の時点で卵を4個確認しました。

7/11の時点で、数匹孵っていました。
7/11に殻のかけらが落ちており、親鳥が何かエサを持ってきている様子が見えたので確認したところ数匹孵化していました。まだ羽毛もなく”嘴の黄色いやつ”にもなっていない状態ですね。

メスとオスが交代で世話しています。
人間が近づくと父鳥?が威嚇してきます。カラスに見つからず育つといいですね。
ふんの掃除が必要でスタッフも大変なので何か良い方法がないかと、建築や内装設備に詳しそうな患者さんにいろいろ伺っています。

※ ジェンダーバイアスに関する話題が含まれますので、不快な方はご容赦ください。
あまり普段映画やドラマを見ない中年以上の男性は共感してくださるのではないかと思いますが、たまに自宅で観ていると、伏線やメタファー(暗喩)がよく理解できず、奥さまや娘さんに”さっきのどういう意味?””この人、前出てきた人?””あの人この人はどういう関係?”と何度も聞き、”集中して観たいから、静かにして!”、と怒られた経験のある方は多いのではないでしょうか?
平成初期までのドラマは基本的に話の展開がわかりやすく、ナレーションや独り言で情報を補足で説明されることが多かった覚えがあります。しかし近年は演出も洗練され、表情やしぐさなど非言語的な情報を読み取るスキルが重要になっているようです。
〇SNSでの考察文化: 意味深な表情のカットや伏線を散りばめることで、視聴者に”あの表情はどういう意味?””黒幕は誰?”とSNSで議論したりバズることを狙った作品が増えています。
〇映像技術の向上:映像の画質が向上し、俳優のわずかな視線の動きや表情筋の動きなど微細な表情を画面のアップで鮮明に伝えられるようになったため、言葉で説明する必要が減っているのかもしれません。
〇演出の高度化:世界基準としてShow, don't tell(語るな、見せよ)という映画的な手法が主流で、過剰な説明や台詞を野暮と避ける傾向にあるようです。
ドラマを観る習慣のある女性の多くは、文脈や空気感、キャラクターの人間関係などを理解する非言語コミュニケーションスキルが涵養されています。一方で、ニュース、スポーツ、バラエティなどメッセージが明快なコンテンツに慣れ親しんでいる男性の多くは、ルール説明や実況もなく、テロップも出ない隠喩的な演出に適応できないのではないかと思います。ちなみに私も史実ベースで展開が予想できる大河ドラマ、あらすじを知っている名作のリメイク・リブート、オーバーな演技の舞台作品ならついていけるかな、といったところで番組ウェブサイトの相関図がないと登場人物の整理ができません。
医療・介護の現場では、患者さんやご家族の表情や振る舞いから病状のヒント、不満や不安などの思いが分かることがあります。看護師や介護スタッフ(多くは女性ですが気の利く男性スタッフも結構います)から、自分一人では気づかなかった急変の徴候や患者さんの思いを指摘してくれて助かったなあと思うことはあります。また、アメリカの研究では65歳以上の緊急入院患者において、女性医師が担当すると男性医師比べ再入院率や死亡率が低く、とくに患者も女性の時にそれがより顕著であったという報告があります。女性医師の勤勉な性格に加え、上記のように高い非言語コミュニケーション能力が診療成績に良い影響を与えているのかもしれません。また、女性の患者さんも女性医師なら相談しやすいというのもあるでしょう。
私は残念ながら男性医師ですが、当院の看護師や医療事務員は女性ならでは細やかな気配りをしてくれています。私が検査や説明に夢中になってつい見逃しそうになるわずかなサインも、彼女たちがしっかりフォローしてくれていますので、どうぞ安心してご来院・ご相談いただければと思います。
参考文献
Ann Intern Med. 177 :598-608,2024

ワールドカップで熱戦が繰り広げられています。私がいつも感心するのは、アディショナルタイムまでもつれ込んでも、10km以上全力でスプリントを繰り返すことができる選手たちの驚異的な持久力です。
一流のアスリートたちは普段からストイックな食事管理を行っていますが、試合前にはあえて糖質の割合を増やしていくカーボローディングなど、チーム単位で綿密に計画された食事が勝敗を分けると言っても過言ではありません。日本代表に帯同してきた専属シェフ(西シェフから平田シェフへと受け継がれていますね)や、管理栄養士の方々の貢献は計り知れないものがあります。
スタミナと糖質に関して、明治時代に活躍した人力車夫について有名なエピソードがあります。それは、明治時代に日本に招かれたドイツ人医師、エルヴィン・ベルツ博士が行った実験です。博士は、1日数10㎞も人を乗せて走る人力車夫の驚異的な体力に驚きました。しかし、彼らの食事を見るとたくさんの玄米、漬物、少々の魚といった質素なものでした。そこで博士は、栄養価の高い西洋食を与えれば、さらにパフォーマンスが高まるのではと考え、ある実験を行いました。
Aの車夫: これまで通りの伝統的な日本の食事(高糖質)
Bの車夫: 牛肉、バターなどを中心とした西洋式の食事(高タンパク・高脂質)
結果は、ベルツ博士の予想を大きく裏切るもので、肉を食べさせたBの車夫は、わずか数日で疲れて走れないから、元の食事に戻してほしいと訴え出たのです。食事を元のお米中心に戻した途端に再び元のスタミナを取り戻し、元気に走りはじめました。
このエピソードは、持久力を要する運動において、糖質がいかに優れたエネルギー源であるかということが分かります。現代の医学では、容易に枯渇する筋肉のグリコーゲンを補充できるのは糖質であるという説明がされます。私自身の経験でも糖質制限をしていたときは、ジョギングのときにでばてやすくなってしまっていたことを覚えています。
アスリートのような特殊な職業を除けば、運動不足になりがちな現代社会において糖質はとかく悪者として扱われがちです。しかし、むやみに制限するのではなく、むしろ「月に何回かは、体が糖質を欲するくらいしっかりと運動する」心がけで上手に糖質と付き合っていきたいものです。

矢印の裏側に営巣中で、診察室からいつも見えます。

6月13日の時点ではまだ巣は小さいですね。
日本で見られるツバメには、ツバメと少し大型のイワツバメがおり、当院に営巣しているのは通常のツバメです。イワツバメはツバメトコジラミという人にも吸血被害を起こしうるトコジラミがいることがあるようです。通常のツバメでも巣にヒメダニなどの虫がいることが多く、殺虫剤を撒きたくなりますがそうはいきませんね。

6月18日の時点ではかなり巣らしくなってきました。
ツバメの寿命は1-2年と短いようで、一羽でも多くの雛鳥が育って命をつなげてほしいなと思います。
当院の前を通りかかることがあれば、ぜひご覧ください。雛鳥が生まれたら、また続報記事を載せたいと思います。

”以前は収縮期血圧160㎜Hg以下なら正常値だと言われていたのに、今はどんどん基準が厳しくなっている。これは医師の学会や製薬企業が薬を売るために、意図的に基準を下げているのではないか?”しばしば耳にするこの言説は、”誰が得をするのか(ラテン語でCui bono)”という自然な考え方ですが、医療者側からすると、いわゆる陰謀論に近いものを感じます。基準値が下がれば降圧剤の市場規模が拡大するのは事実かもしれませんが、そこに不正な意図が介在するのでしょうか?
1. 基準値が下がった経緯
血圧の基準値が厳格化されてきた最大の理由は、エビデンス/科学的根拠の蓄積です。長期の観察研究や、厳密に企画された臨床試験で、”ここまで血圧を下げた方が、健康寿命を延ばせる”というデータが次々と提示されたことが、目標値を引き下げる根拠となっています。
2. 透明性を担保する取り組み
医学研究は補助金だけではできず、企業の協力が必要です。その場合に関連企業からの資金提供が研究結果を歪めていないか?という懸念も残ります。結論から言えば、20年ほど前に製薬会社と研究者の間に不適切な関係が疑われる事例は存在しました。現在は学術活動において利益相反の開示が厳格に求められます。ガイドラインを作成する委員会の医師・医学者たちは、企業から講演料や研究費をいくら受け取っているかを公開する義務があり、特定のスポンサーからの関与が大きい場合はガイドラインの策定に関われないルールが敷かれています。また学会の有力者たちも評価を同業者から受ける立場にあります(●●大学の△△先生は××製薬の広告塔みたいだから、話は割り引いて聞いておこうかな、など)。だから不正をしていないという免責にはなりませんが、透明性を担保する努力は行われています。
3. 必ずしも利益追求一辺倒ではない
現場の医療機関にとっては運営する利益を上げることは必要なことですが、多くの医師にとって下記の考え方が一般的です。
〇特に高齢者の場合、過剰降圧でふらつきや転倒のリスクが高まりますので高齢者には緩やかな目標値が設定されています。
〇薬の種類が増えすぎることで副作用が起きやすくなる問題も、是正に向けた取り組み(処方薬数を少なくすると調剤加算がつく)が進められています。
〇ガイドラインではまずは「減塩・運動・減量」といった生活習慣の改善が強く推奨されています。
犯罪捜査やジャーナリズム、ビジネス分析においてはCui bono?という考え方は仮説を立てるうえで有効です。しかしそれに拘りすぎると論理の飛躍や思い込みから陰謀論的思考に陥ってしまいます。
①ある事象によって結果的に利益を得た人が意図的に事象を引き起こしたとは限りません。陰謀論ではこの偶然や事後的な適応を、事前からの計画として意味づけします。新薬も開発は病気を増やすことを意図としたわけではなく、ニーズに応じた製薬会社の企業努力です。
②理性的な人間ほど偶然より必然を好みます。不条理な出来事が起きたと考えるより、大いなる意思が働いていると考える方が、納得しやすいのかもしれません。
すなわち、”Cui bono?”は、あくまで仮説の立脚点にすぎず、確たるエビデンスの証明や、秘密を保持し続けるコスト・発覚した際のリスクに見合うことであるかという複数の要因を加味して判断することが重要です。
医師や製薬企業の何らかの意図があるのではと疑うことまでは自然な行為であり批判的吟味です。しかし過度な陰謀論を煽るインターネットや雑誌の意見や、個人の体験に基づく逸話を信用しすぎると標準治療を受けるタイミングを逸することになります。社会は複雑な系であり、医療機関や製薬会社にとって患者を顧客とみなすビジネスとしての側面も、患者の予後を改善したいという真摯な側面も両立しうるものです。同様に、ジャーナリズムは権威を監視し社会問題を提起する重要な役割も担っていますが、煽情的な記事や、読者に耳当たりの良い記事で部数を伸ばそうとする商業主義に引っ張られやすいことは否定できないでしょう。広告収入で収益を上げようとするインフルエンサーも同様に、伝えたいことがある強い気持ちと、経済的利得が両立しています。
医療一般の疑問について、疑問や不安に思われる方はニュートラルな姿勢で身近な医師や看護師、薬剤師などに疑問を投げかけてみてはいかがでしょうか。


骨粗しょう症のガイドラインにおける薬物治療が必要な方は以下の通りです。
①骨塩定量検査で若年平均の70%未満
②骨塩定量検査で若年平均の70-80%未満で、大腿骨折の家族歴、あるいは40歳以上で骨折リスク評価ツール(FRAX®)でリスクが高いと判断された場合
③既存の他疾患に対して、長期に副腎皮質ホルモン投与や性ホルモン低下療法を受ける方やリウマチのある方
一次予防対象の方を整形外科医だけではカバーすることは大変です。一方で内科クリニックでは骨塩定量の検査設備がないこともあり、通常の診療だけでは治療対象者を見逃してしまいます。
広島市では、女性では20歳から男性では40歳から5歳刻みで骨粗しょう症健診が行われていますが、自治体の検診受診率は東高西低の傾向があります。2023年時点で40歳以上の女性について広島県の受診率は4%台にとどまり、14%まで引き上げることを目標としています。
当院では機器による骨塩定量検査は行えませんが、骨粗しょう症検診の結果をお持ちいただければ、FRAX®、血液検査による骨代謝マーカーを参考にして治療アドバイスが可能です。 女性の皆様にとって、”自立するため””子や孫に心配をかけないため”に定期的な骨粗しょう症検診を受けましょう。
将来、倒れそうになったらすかさずバランスをとってくれるような介護装置が開発されたらよいのになあ、と願っています。
参考)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版






彼には医者時代にこんな逸話があります。当時も医者は、気休めでも葛根湯などの薬を出すものと思われていましたが、彼は診察の結果、単なる風邪だとわかると、「風邪に効く薬はない、帰って暖かくして寝ていなさい」といって返したそうです。
現代でも通じる正論ですが、薬を期待した患者からは何もしてくれないと医院はあまり流行らなかったそうです。
愛想はなく当時でも変わり者であったようですが、尊王攘夷など観念論が先行しがちであった長州藩においては異質な近代型の現実主義者・合理主義者であったといえます。
幕臣方に勝海舟とならぶ能吏かつ合理主義者として小栗上野介忠順(ただまさ)がいます。大村益次郎も彼の軍事指揮官としての能力に警戒していたとされる人物です。2027年の大河ドラマ”逆賊の幕臣”の主人公の予定です。小栗忠順についてはまたの機会に…。



※開院時チラシです。



以前に比べ様々な教育ツールが増え、若い先生はよく勉強していると感じます。医療知識はアップデートしないと、すぐに時代に取り残されてしまいます。総合病院の医師はおおむね信頼はできますが、若い医師に比べてベテラン医師ほど能力差が大きくなります。身も蓋もない言い方をすれば、年配の医師ほど当たり外れが大きいです。
不測の事態に緊急対応する場面では、ベテラン医師の豊富な経験が不可欠です。しかし、外来や入院中の対応に関しては、若手医師の方が丁寧で一生懸命なことが多いのではないかと思います。近年、”直美(研修医終了後に直接美容クリニックに就職する医師)”という言葉が議論になっていますが、忙しい病院で研鑽を積んでいる若い先生たちは信頼できると思いますよ。



血圧は上下の血圧があり、上の血圧を収縮期血圧、下の血圧を拡張期血圧と呼びます。心臓がギュッと縮んで血液を動脈に送り出すときの血管にかかる圧力が収縮期血圧、その後心臓が緩みながら次の拍出のため血液をためているときの圧力が拡張期血圧です。高血圧症の定義は140/90mmHgですが、拡張期血圧だけ高いといわれている方、特に若い世代でいらっしゃいませんか? すぐに治療が必要なわけではありませんが、拡張期血圧の上昇は初期のサインです。
<上下の血圧が変化するメカニズム>
①高血圧なし(例:120/75㎜Hg )
健康な若い人の血管は、ゴムホースのようにしなやかです。心臓が血液を送り出すとき、血管が適度なクッションとなり圧力を吸収し収縮期血圧は上がりません。心臓が緩んでいる間も、血管のしなやかさによって血液を全身へスムーズに送り届け、適切な拡張期血圧が保たれています。
②高齢の高血圧(例:150/60㎜Hg )
高齢の方は加齢、高血圧・脂質異常症の暴露、喫煙によって、大動脈などの太い血管が硬くなり弾力性を失います(動脈硬化)。硬い血管では心臓から送り出される血液の圧力を吸収できないため、ダイレクトに血管壁へ強い圧力がかかり収縮期血圧が高くなります。一方で血管の柔軟さがなくなっているため、心臓が休んでいるときに血液を押し出すサポートができなくなり、血管内圧が急激に下がります。そのため、拡張期血圧が維持できず低くなる傾向にあります。結果として上下の血圧の差が開いてしまいます。
③若年の高血圧(例:138/90㎜Hg)
大動脈のしなやかさは保たれていますが同世代の健康な方と比べ、動脈が収縮している状態にあったり、体液量が過剰で血管内ボリュームが高くなっています(血管抵抗の亢進)。この状態では心臓が緩んでいる拡張期でも動脈圧が高い状態にあり、若い人に多くみられる下の血圧だけが高い状態です。血管を収縮させるのは交感神経や、昇圧ホルモンの影響と考えられています。ストレスや不規則な生活スタイルなどによる自律神経の緊張状態、肥満、運動不足や過度のアルコールなど生活習慣の影響が主ですが、睡眠時無呼吸など二次性高血圧などが隠れていることもあります。体液量の過剰は主に塩分摂取の過剰や肥満などの影響です。そのうち収縮期血圧も上昇してきます。
<結局どのタイミングで治療が必要ですか?>
基本的に収縮期血圧は臓器のダメージとの相関が強く治療の指標とされています。このため拡張期血圧が高いだけですぐ降圧薬が必要なわけではありません。具体的には検診で拡張期血圧が85~90㎜Hg前後に上がってきたら生活習慣を見直しましょう。リバーシブルな状態ですので服薬が必要にならないこともあります。それでも収縮期血圧が140㎜Hg を超えてくる場合に、医療機関での相談を考えていただくことでよいでしょう。肥満の改善が難しい、仕事はつらいがなかなか調整や転職はできないなどの事情のある方も思い切って薬物療法をお勧めします。
<受診、治療を迷っているみなさんに>
10-20年単位で放置すると、動脈硬化が進行します。そうなると脳・心血管の病気を発症しやすくなることはもちろんですが、お歳をとってから血圧の変動も大きく転倒しやすくなる・認知機能低下のリスクも高まります。外見の若さも大事ですが血管をしなやかに保てているか意識してあなたの血圧を見直してみましょう。薬に頼りたくないと思われる方もおられるますが、①血管の老化を防ぐデータのある優れた降圧薬・高脂血症薬を②国家資格者の助言・副作用チェックのもとに③医療保険で安価に利用できるとポジティブにとらえていただくとどうでしょうか。残りの人生が長い方ほどNISAやiDeCoよりも優先するべき自分への投資といえるでしょう。

花粉症のシーズンが本格化してきました。正式には季節性アレルギー性鼻炎・結膜炎と呼びます。ずっと続くわけではないにしてもつらい症状で悩まれる方も増える時期です。
最近の薬剤は眠気も少なく効果も持続するものが多いですが、それでも外出時にはマスクやメガネで厳重にガードしていても、”朝起きると目やにがひどい””夜間鼻が詰まって眠りにくい”といった経験をされる方も多いのではないでしょうか。外出先から帰宅した人の服について持ち込まれる花粉は無視できない量であるといわれています。ウールやフリースのような素材は花粉をしっかりキャッチしてしまうため、ツルツルした素材がよいといわれています。全身レザージャケットを着込んでナイロン製の帽子を深くかぶり、大きめのサングラスにマスク姿で出歩けば、家に持ち込む花粉の量は劇的に減らせるでしょう。しかし暖かい日はレザージャケットは蒸れて暑そうですし、だれもが似合う装いではありませんね。私だと不審人物に思われてしまうかもしれません。
花粉を家に持ち込まないために自宅にエアシャワーがあったらいいのにと調べてみました。強風でチリやホコリを吹き飛ばす設備で、食品工場の入り口や手術室の前室でよく見るあれです。花粉症に対する効果を検討した医学論文は見当たりませんでしたが、理論上は効果は期待できそうです。実際に最近の注文住宅では、粉塵対策として小型エアシャワーを玄関にビルトインできるそうです。さらに、都心の高級マンションでは共用部分に標準装備されている物件もあるようです。
現実的には設置費用や定期的なフィルター交換などの維持費はかかりそうで、 ”玄関に入る前に上着をバサバサと払う””帰宅したらすぐに洗顔や着替えをする”といった、地道な水際対策で乗り切ることが現実的でしょう。花粉症の薬物治療も重要ですが、症状の強い家族がいる方は、花粉をなるべく家に持ち込まない工夫をして、この季節を少しでも快適にお過ごしください。
はしかは麻の実のような皮疹があることから正確には麻疹(ましん)といいます。麻疹ウィルスの伝染力は高く、患者が発生すると前後の動向をニュースになるほど公衆衛生上の脅威です。さらに、重篤な肺炎や、治癒後数年から数十年経ってから亜急性硬化性全脳炎という深刻な後遺症を引き起こす可能性もあります。トムとジェリーでも、はしかにかかったと勘違いしたトムが怯える描写があります(1949年公開「ウソをついたら」)。ER救命救急室というドラマでも予防接種をしていない男の子が麻疹肺炎で気管挿管を受けるシーンがありました。
2025年以降に米国では麻疹が流行しており今年に入っても1000人を超える感染者が出ているそうです。米国は2000年に麻疹の排除に成功していましたが、公衆衛生行政の停滞や個人的な理由によるワクチンの接種忌避が増えているそうです。日本は2015年に、国内から麻疹ウィルスを排除した状態であると認定されています。多くの国民はすでに感染した経験があるか、予防接種を受けて免疫を持っています。しかし、日本では麻疹・風疹(MR)ワクチンは、1歳児と就学前の計2回の定期接種であり、未接種の赤ちゃんにとって、はしかは依然として脅威です。
医師として診断した経験はありませんが、1980年代前半に当時ワクチン未接種だった私の弟が麻疹で入院しました。私は1回目の予防接種直後であったためか発症しませんでしたが、年間100人近くが亡くなっていた時代です。幸い弟は後遺症もなく今も元気にしています。
現代は、国際情勢なども含め先行きが不透明で不安定な時代です。しかし、ワクチンの有効性と安全性は、長年の歴史によって確かに証明されています。自分自身の身を守るため、そして、まだ免疫を持たない小さな命を守るためにも、今一度、ご家族のワクチン接種に漏れがないか確認することが大切です。
(トムとジェリー 1949 より 最終的に2匹とも麻疹を発症し隔離されています)


昨年の5月に開院祝いでたくさんの胡蝶蘭をいただきました。
翌年に再度花を咲かせることは慣れた方でないとなかなか難しいようです。自宅に持ち帰った紫の胡蝶蘭が咲きました。たまたま水槽の隣で絶妙な湿度であったのがよかったのかもしれません。開院直前のあわただしかった日々、一転その直後の患者さんも少なく閑散とした日々が思い出されました。
また春から初心を忘れず日々を過ごしていきたいものです。
2026年春からは高難易度の手術やロボット支援手術を行う医師の待遇が改善されるようです。私自身も脳外科や心臓外科といった外科系への憧れがありましたが、研修医時代に自分にはついていけないかな…と諦めました。今でも外科の先生方に対して、畏敬の念と少しの後ろめたさを抱いてはいます。
内科も夜間の呼び出しはありますが、緊急カテーテル(循環器科)や緊急内視鏡(消化器科)などを除けば一人で対応が可能なケースがほとんどです。一方で外科はひとたび緊急手術となれば、上級医+若手(麻酔科医、手術室看護師を含む)が呼び出され術前診察から説明、手術、そして術後管理と、翌日まで続く長時間勤務を強いられます。海外では、手術と術後管理を分業化したり、交代制を徹底したりと労働環境が日本より整備されていると聞きますし日本でもチーム制の導入など働き方改革の流れはあります。しかし、外科医には「自分で執刀した患者さんは自分で診る」というカルチャーが根付いており、完全な分業制への移行にはまだ時間を要するように思います。
経済学の父、アダム・スミスは、ピン工場の例を用いて分業による生産性向上を説きました。しかし同時に、過度な分業による弊害についても指摘しています。同じ作業の繰り返しは、仕事への意欲を奪い人間性を損なう危険性があると警告しました。この考え方はのちの労働疎外という社会主義思想につながりました。飲食店で例えてみると、個人飲食店のマスターのように食材選びから味わうお客さんの顔が見える立場と、大きな飲食店の厨房で各人担当する工程が決まっているのでは、後者の方が、仕事というより労働を強いられている感覚に陥りやすいのではないかと思います。これを医療に置き換えると外科医が手術だけを行い、術後管理以降はすべて麻酔科や内科に任せるシステムになったとします。診療効率は上がり患者にとってもメリットがありそうですが、極端な分業化は外科という仕事の魅力も半減してしまう恐れもあります。いくら手術が好きな外科医であっても、術後の回復過程や、退院して元気にしている患者さんとの触れ合いは、大きなモチベーションになっているのではないかと思います。
予防ができる生活習慣病とは異なり、外科救急疾患は予測困難なことが多いです。だからこそ、外科医の自己犠牲に任せるのではなく、心身ともに健康に働けるような制度、待遇の充実に期待しています。また、制度だけでなく意識の変革も必要です。医療を受ける皆さんも、周囲の医療者も、過酷な勤務を「外科医を選んだのだから当たり前」と思わずに、リスペクトを持ち、外科医を大事にしていくことが大切ですね。
若いころはすき焼きやふぐ鍋といった豪華な鍋に惹かれるものですが、年を重ねると、水炊きやおでんの滋味深さがわかってくるものです。
中高年になってその良さに気づいたのが常夜鍋です。毎日食べても飽きない、あるいは宵から夜中までいつでも美味しく食べられることから、常夜鍋、宵夜鍋と呼ばれます。基本は家庭料理ですが、昆布だしに豚肉と青菜をくぐらせるだけのシンプルなおいしさは格別です。北大路魯山人や池波正太郎、向田邦子といった食通や文豪たちも、この鍋を愛したそうです。
栄養面でも理にかなっており、豚肉は疲労回復やアルコール代謝に必要なビタミンB1が含まれています。 そこに青菜のビタミン類、豆腐のたんぱく質が加われば、酒飲みにとって最強の養生食となります。ポン酢のかけすぎによる塩分が気になる方は、向田邦子流の食べ方がおすすめです。彼女はレモン汁と醤油でさっぱりと楽しんでいたそうですよ。
現在広島でもインフルエンザB型が流行しています。
インフルエンザが流行しているシーズンに病院を受診すると、医師が喉の奥をライトで照らし、「あ、これはインフルエンザですかね~?」と指摘された経験はありませんか?医師は、のどの奥に現れる特有の変化を探しています。
1.
インフルエンザ濾胞とは?
インフルエンザウイルスに感染すると、のどの突き当たりにあるリンパ組織が独特の腫れ方をします。これをインフルエンザ濾胞と呼びます。具体的には、いわゆる、のどちんこをくぐった奥の壁に、光沢のある赤い粒が浮き上がって見えます。2007年に宮本昭彦先生(茨城県桜川市、宮本内科医院)が報告したこの所見は、その見た目から「イクラサイン」とも呼ばれています1,2)。
2,なぜこのサインが重要?
通常の診断で用いる迅速検査キットは、発熱から12時間未満などの早い段階では本当はインフルエンザなのに陰性と出てしまうことがあります。一方でインフルエンザ濾胞は発熱直後から現れることもあります。つまり、検査キットでは判定できない早い段階で診断できる根拠となります。タミフルなどの治療薬は、発症から48時間以内の服用で効果を発揮します。「イクラサイン」をもとに診断治療をすすめることで、早期に症状を改善し、重症化を防ぐ可能性があります。また、患者さんにとっても「今日の検査では確定できないので明日また来てください」と言われて二度手間になる負担が減りますよね。
2.
注意点
もちろん万能ではありません。お子さんや口が小さい方、舌の大きな方は、そもそも喉の奥まで十分に見えないことがあります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の方に見られる咽頭リンパ濾胞の増生(敷石状変化)と似ているため、見極めが必要です。また、時間がたつと融合してしまい、この所見が消失するといわれています。診断においては、①インフルエンザ流行期であるか、②臨床症状が矛盾しないか、③特徴的な色調かどうかの総合的な判断が重要です。
最近は咽頭画像からAIで判定する医療機器(nodosa®、Aillis株式会社)も登場しています3)。
当院でもいつか導入したいと思っていますが、それまでは心の眼を活用して的確な早期診断に努めてまいります。
文献2)より典型的なインフルエンザ濾胞
1) J.Nihon Univ.Med.Ass.,2013;72(1):11-18
2) Postgrad Med J. 2016 Jul 27;92(1091):560–561
3) J Med Internet Res 2022;24(12):e38751
足のむくみ(浮腫)は血管周囲のスペース(間質)に体内の水分が漏れることで生じる症状です。
頻度が高く対応が必要な原因としては心不全や腎疾患、肝硬変、甲状腺機能低下症があります。片足だけの浮腫は静脈・リンパの循環障害なども考慮する必要があります。浮腫の鑑別疾患はまれな病態も含めると多数にわたります。
比較的頻度が高く、見落とされがちなのが降圧薬であるカルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピンなど)による薬剤性浮腫です。血管を拡張することで血圧を下げる薬剤です。特徴として末梢組織の出口血管(静脈)よりも入口(動脈)を強く拡げる作用があるため、末梢組織で血液が渋滞し水分が血管内から間質へ漏れ出すことで浮腫が生じると考えられています。
カルシウム拮抗薬による末梢性浮腫は見過ごされがちで、不要な利尿薬を増やされたり、厳しすぎる減塩療法を指導されたりと、必要以上の治療を受けておられる方もいます。
実際に高血圧患者を対象にしたカナダの研究で新規にカルシウム拮抗薬を処方されるとその後に利尿薬の追加処方が増えやすくなるとの観察研究データもあります1)。良かれと思って処方された薬に対して薬が増えてしまうわけですね(処方カスケード:処方のドミノ倒しといわれています)。
薬剤性浮腫は肝臓の代謝酵素の個人差で生じやすい方がいると考えられています2)。
日常の診療で事前に予測することは困難ですが、以下の項目に当てはまるなら薬剤の影響かもしれません。
① カルシウム拮抗薬を高用量(最大量の50%以上)で服用している。3)
② 普段運動が少なく浮腫は足の甲に生じる。典型的には車いす生活など介護を受けている方などに多い。
③ 明らかな心不全や腎疾患は指摘されていない。
カルシウム拮抗薬は降圧効果が確実で副作用が少なく、球種でいればフォーシームストレート、ゴルフならドライバー、シューティングゲームならノーマルショットのような汎用性が高く、私自身も一番処方しているのではないかと思います。“カルシウム拮抗薬のなかでも末梢性浮腫を起こしにくいものに変える”、“他の降圧薬と組み合わせてカルシウム拮抗薬の高用量を避ける”などである程度対策が可能です4)。
浮腫で悩んでいる方で該当する方がいれば担当の先生や薬剤師さんに相談してみてはどうでしょうか。

1)JAMA Intern Med. 2020 May 1;180(5):643-651
2)Pharmgenomics Pers Med. 2021 Feb 2:14:189-197.
3)J Hypertens. 2011 Jul;29(7):1270-80.
4)Am J Med.
2011 Feb;124(2):128-35.
2026年2月現在、広島市でもインフルエンザB型と感染性腸炎が流行しています。
冬場に病院で救急当番をしていると、カキ喫食によるウィルス性腸炎に遭遇します。自宅で食べたという方もいらっしゃいます。私の親は四国出身で子供のころも食卓にはカキフライしか並びませんでしたので、”自宅で生ガキを食べることってあるの?”と思っていましたが、生粋の広島ケンミンは親戚の間などで贈答したりされたりすることがあるとその後に知りました。
二枚貝は海水を濾過して微生物を濃縮するため、これを介した感染は経路として有名です。夏はビブリオ菌による腸炎が知られていましたが、2001年に食品衛生法で規格基準が厳格となり現在は減少しています。冬に有名なノロウィルスは、わずかなウィルス量で感染成立するうえ、アルコール消毒が効きにくく、次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が必要となるため、現在でも保育園・施設や家庭内での水平感染で集団感染を起こしやすい厄介な存在です。近縁のサポウイルスやアストロウイルスも冬季の腸炎の原因とされますが、日常臨床での鑑別は困難であり、対症療法も基本的には同様です。
基本的に数日で改善する病態ですが、若い患者さんでも症状が強いところをみていると私も生食する勇気が持てません。大学院生のころ研究室の学会参加で訪れたサンディエゴは魚介が有名なところで、夕の懇親会で指導教官の先生方の前ですすめられて手をつけないのも無粋なので南無三!と食べましたが、帰りのフライトで調子が悪くならないか心配でなりませんでした。
幼児のお子さんの感染性腸炎の原因であったロタウィルス腸炎は2011年以降経口ワクチン(ロタリックス®、ロタテック®)の定期接種化により激減しています。ノロウィルスについても開発がされているようで、実用化されたら真っ先に接種を受けて存分にいただいてみたいものです。

コカ・コーラ社の缶コーヒー・ジョージアのCMで使われた、「世界は誰かの仕事でできている」という名コピーがあります。
夜勤や交代制勤務で働かれている方がたくさんおられます。夜勤を含むシフトワークの弊害は以前から知られており、特定の業務に従事する方には年2回の健康診断が義務づけられています。私も当直回数が多い救急病院に勤務していたころは血圧が高く、翌朝は緊張性頭痛に悩まされていたものです。若いころは平気でも、急に起こされ睡眠サイクルを中断されたり、浅い仮眠しか取れなかったりする業務はある程度の年齢になると厳しくなるものだと痛感しています。
医学的な研究でも、これらは裏付けられています。健康な18〜35歳の成人を対象にした研究では、たった一度の夜勤でも収縮期血圧が3mmHg上昇し、健常者で睡眠中に生じる血圧が日中より低下するDipping現象もみられにくくなるそうです¹)。また、強制的に被験者を昼夜逆転環境にした実験においても、シフトワーク群は菲シフトワーク群と比較して睡眠中の血圧上昇や、炎症マーカーの上昇が見られたといわれています²)。
長期的な影響についても、複数の研究をまとめた報告で”シフトワークは喫煙や社会背景を考慮しても心筋梗塞のリスクを23%、虚血性脳卒中のリスクを5%増加させる”との報告があります³)。さらに、19万人の看護師を追跡した研究でも同様の結果が出ており、特に10年以上続けるとそのリスクは高まるようです⁴)。
インフラ管理、物流、医療福祉、警備、飲食・宿泊施設など深夜営業のお店など、人手不足の中50歳を過ぎても勤務されている方がいます。誰かが担わなければならない仕事があり、結果として体調を崩す職員もいます。私はそのようなお仕事をしている現役世代をサポートしたいという気持ちで日々診療しています。社会を支えてくださっている皆さんにリスペクトを抱いて社会を維持していきたいものです。
1)Physiol Rep. 2025 Feb;13(3):e70231.
2)Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Mar 8;113(10):E1402-11.
3)BMJ. 2012 Jul 26:345:e4800.
4)JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1726-34.
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衆議院選挙の真っ最中ですね。
戦後を代表する広島の有力政治家といえば、池田勇人、宮沢喜一、岸田文雄元首相、亀井静香元建設相らが挙げられます。そうした中に、灘尾弘吉元衆議院議長(1899-1994)もいらっしゃいました。広島城の堀の西側、エディオンピースウィング広島に面した通りには、竹下登元首相の揮毫による顕彰像が建立されています。
灘尾氏は江田島町の出身で、国泰寺高校の前身である旧制広島一中から東京帝国大学を経て内務省に入り、その後、自由党から政界入りしました。民主党と保守合同後の自由民主党では旧広島一区から12期連続で当選し、派閥争いから距離を置いた長老として衆議院議長も歴任しました。
内務官僚時代に厚生省設置から関わり、文相の「教科書無償化」、「文化庁の発足」厚相時代の「社会保険庁の設立」、「児童扶養手当の整備」など業績は多岐にわたります。ポリオワクチンの緊急輸入の際も前任の古井喜実大臣の決断を引き継ぎ対応にあたられました。また、国立がんセンターの設立・命名にも関わり、以後公的機関の中核施設を「~センター」と呼ぶようになったともいわれています。2030年に広島駅北に県主導の新病院が完成予定ですが、”〇×広島●△医療センター”となるのではないでしょうか。
灘尾氏や古井氏らが築き上げ、今や空気のように当たり前となった国民皆保険制度は時代と共にその在り方も見直しを迫られています。
民政に尽力された先人たちへの敬意を表して、私たちは日々の臨床現場でなすべき責務を果たしていきたいと思います。


●尿ナトカリ比
私たちの体は様々なミネラルの働きによって健康が保たれています。食塩の主要なミネラルであるナトリウムの摂りすぎが高血圧によくないことは有名ですが、実はもう一つ、カリウムというミネラルが重要であることをご存知でしょうか?カリウムには、ナトリウムを腎臓から押し出す働きがあります。
このナトリウムとカリウムのバランスを尿検査で調べたものが 尿ナトカリ比(尿中ナトリウム濃度/尿中カリウム濃度) です。この数値が低いほど、死亡1)や脳卒中2)などのリスクも低下することがわかっています。

●目指すべき数値は?
日本高血圧学会が推奨する理想の数値は2未満です。狩猟採集時代には塩は貴重品でナトリウムが少なく、木の実などでカリウムを多く摂取していたと考えられています。現代社会では急に達成することは難しいかもしれませんが、4未満をクリアすることから始めましょう3)。数値の変化を確認するのも励みになるかもしれません。医療機関で測定は可能です。
●今日からできる「ナトカリ」改善
ひとことでいえば「ていねいな暮らし」を実践することが大切です。ポイントは置き換えとプラス一品です。
塩分を「引く」: 食塩以外の調味料の活用、麺類の汁は残す、加工食品を減らす。
カリウムを「足す」: いつもの食事に、野菜、海藻、果物、ナッツなどを一品プラスする。
これらを組み合わせることで、効率よくナトカリ比を下げることができます。

●実践における注意点
腎臓の働きが高度に低下した方、慢性腎臓病と診断されている方は、カリウムの過剰摂取がかえって害になることもありますので、医師に相談したうえで実践しましょう。
減らすこと、禁止することばかりを意識するとネガティブな気持ちになりがちになりますよね。
ここはあえて、カリウムをしっかり摂取するポジティブな気持ちを心がけてくださいね。
1) N Engl J Med 2014;371:612-623
2) Am J Kidney Dis. 2016 May
24;69(3):341–349
3) Hypertens Res. 2024 Dec;47(12):3288-3302.
現在の症状を改善してくれる薬剤、例えばかぜの時の咳止め、花粉やじんましんの時の抗アレルギー薬、腰が痛い時の鎮痛薬は患者さんに処方すると喜ばれます。
一方で医師の立場から患者さんに服用してもらいたい薬剤は長期内服することで予後を改善する効果のある降圧薬、糖尿病薬、高脂血症薬、抗血栓薬、骨粗しょう症薬などの薬剤です。これらの薬は効果が短期間ではわかりにくく、比較的新薬が多く高価であったりするので、また薬が増えるんですか…、と嘆かれる方も多いです。
このように患者さんが希望する薬剤と、医師が服用を勧める薬剤とにはギャップが生じがちです。費用対効果の少ないとされる”低価値医療”は保険適応外から外そうというも議論されており、近い将来薬局で患者さんが購入できる薬は増えるかもしれません。AIも発達し、医師という専門職の重みは相対的に低下することは避けられないかもしれません。
その中で、必要な薬剤は理解して続けていただき、不必要な薬剤は漫然と処方しないよう患者さんとのコミュニケーションがますます必要になっていくだろうと感じています。

1月20日ごろは大寒といって、冬の寒さが最も厳しくなる時期です、普段落ち着いている方も血圧も高くなる方が多い時期といえるでしょう。病院で当直をしていたころは、「いつもより血圧が高いんです」と不安になり、救急外来を受診される方がいらっしゃいました。多くの方は病院に来てスタッフの顔を見て安心すると、自然と血圧が落ち着くケースがほとんどでした。
血圧が高い時に無理に動くと、かえって興奮して血圧が上がってしまいます。もしも、血圧が高いこと以外に症状がないのであれば、まずはご自宅でリラックスして休んでいただくのが一番の対処法です。
ただし、以下の症状がある場合は緊急事態の可能性があります。救急車を呼ぶか、至急医療機関へ向かうことも考えてください。
血圧が高いと、心配性の方は気になって何度も測ってしまうかもしれません。しかし、その焦りがさらなる血圧上昇を招くこともあります。
たとえ180/100mmHgまで上がったとしても、多くはすぐに正常値まで下げる必要はなく、逆に急激に下げることがかえって良くないこともあります。
人間の体は機械ではないため、血圧は常に変動します。「血圧は変動するもの」と理解し、日頃からかかりつけ医とそれぞれの許容できる血圧(合併症のあるなしによって異なります)について、相談しておくことが大切です。
