”腎機能が低下していると指摘された”

腎機能が低下している、といわれて受診される方は、健康診断や他の医療機関で血液検査で、クレアチニン(Cre)や、Creから算出されるeGFRの値が異常と判定されたケースです。なお、CreとeGFRは反比例のような関係であり、腎機能が低下するとCreは上昇し、eGFRは低下します。血清Creは体液量、薬剤、筋肉量などの影響を受けやすいという性質がありますので、過去のデータと比較することが重要です。
また、腎機能は年齢とともに自然に低下しますが、そのスピードが「正常な加齢の範囲内」なのか、それとも「通常より早く悪化しているのか」を見極める必要があります。
①見かけ上腎機能が低下している場合
60歳くらいまでの現役世代に多い事例として、以下のような状況で一時的に数値が悪く見えることがあります。
●暑い時期の健診で、前日から絶食や飲水を控えていた(脱水により濃縮)
●前日に激しいトレーニングをしていた(筋肉が壊れることでCre↑)
●薬剤による影響(Creの尿からの排泄を低下させる薬剤)
このような可能性がある場合は、十分に水分を摂取した状態で再検査し、筋肉量の影響を受けにくい指標(シスタチンC)や、尿検査、超音波検査などを組み合わせ、本当に異常があるのかどうか判断します。

②本当に腎機能が低下している場合
基礎疾患や過去のデータとの比較、尿検査などを総合して評価します。比較的短い期間でCre/eGFRが悪化している場合は適切な治療で改善する可能性もありますので、総合病院の腎臓内科へ紹介・相談を行います。
長期あるいは既知の経過と判断した場合には、慢性腎臓病として薬物療法、食事療法が必要です。慢性腎臓病については、ここ数年で腎臓を保護する薬剤が何種類か使えるようになっています。早い段階であればより効果も大きく、将来の人工透析が必要となる事態を回避できると考えられています。
尿検査の異常がなく、基礎疾患のない方の多くは、①のパターンであまり問題なく、引き続き検診でのフォローをいただくだけで十分なこともあります。一度は当院やお近くの腎臓専門医にご相談ください。
この場合、しっかり水分を摂取して、受診時に尿が取れるようにして来ていただくとスムーズです。
”尿検査で蛋白や潜血が出ているといわれた”

まずは再検査にお越しください。
尿の採取条件(女性の生理中や膀胱炎)や体調によって一時的に陽性となることも多く、「検診で異常=すぐに病気」というわけではありません。実際、当院で再検査をすると異常なしとなる方のほうが多いです。
しかし、再現性をもって何度検査しても異常なら、隠れた病気を見逃さないために、以下の2つの視点から詳しく調べる必要があります
① 内科疾患:慢性腎炎、糖尿病や高度肥満に伴う代謝疾患、遺伝性疾患など
リスクと対応: これらは放置して長期間経過すると、腎機能低下を引き起こし(Creが上昇)、将来的に腎不全へ進行する恐れがあります。
尿蛋白が出ている状態が長く続くと、腎臓の組織が元に戻らないほど傷んでしまい、治療のタイミングを逃してしまうことがあります。早期に診断し尿蛋白を減少させる治療を行うことで腎不全への進展抑制することが可能であり、腎臓内科医の最も重要な業務であるといえます。
特に尿タンパク量が多い場合は、精密検査(腎生検)の可能な高次機関にご紹介します。

② 泌尿器科疾患:尿路結石、尿路がん(腎・膀胱がんなど)
尿検査で異常を指摘されたら、次のステップの検査は?

健康診断や日常診療では、試薬を含む検査用紙を使って尿潜血・尿蛋白の検査を行います。低コスト・短時間で実施できますが結果は(-、+-、1+、2+、3+)という大まかな判定結果となります。これは、健康な人の中から異常をひっかけるスクリーニングには優れていますが、個別の患者さんの細かい増減の経過を追うのに適した指標ではありません。また偽陽性(過大評価)、偽陰性(過小評価)の頻度も高い検査です。
このため腎臓内科・泌尿器科で行う二次精査としては尿沈渣、糸球体蛋白・尿細管蛋白の定量検査を行います。
尿沈渣(基準値1-4/HPF)
顕微鏡で赤血球や白血球、円柱(細胞成分などの集まり)の有無を確認します。1-4/HPF は拡大視野に1-4個以下の赤血球を認めるという意味で、5-9、10-19,20-49/HPF…と判定されます。膀胱炎などでも上昇します。50/HPF~と多い場合は尿路結石発症時、高齢者で尿路がんも考えます。
尿蛋白/尿クレアチニン(基準値0.15g/gCre 以下)
糸球体腎炎、糖尿病などで生じる糸球体由来の尿蛋白を測定します。そのときの尿の濃さによって尿蛋白量は変動しますので尿中のクレアチニンで割って補正評価をします。尿蛋白が多いほど腎不全のリスクは高まり、低下させることで腎機能低下を抑制することが可能と考えられています。再現性をもって1.0g/gCreを超える場合にはできるだけ早い段階で病院で腎臓の組織を採取する検査(腎生検)が必要です。
尿中β2ミクログロブリン/尿Cre (基準値150μg/gCre 以下)
糸球体の障害に比べると頻度は少ないですが、尿細管・間質が障害される尿細管間質性腎炎や特定の遺伝病の方で上昇します。健診項目にはなく見逃されやすいので当院では念のため確認しています。また、原因に係わらず腎機能の低下が進行した場合には上昇しますので解釈に注意が必要です。
これらの3項目が問題なければ、とりあえず一安心と考えていただくことができます。
尿潜血や尿蛋白を複数回指摘されている場合にはご相談下さい。
腎機能が再現性をもって低下した病態≒CKD

慢性腎臓病(CKD)は、以下のいずれかまたは両方が続く状態を指します。
〇尿検査や血液検査などで、腎臓の障害が明らかである(とくに尿蛋白)
〇推定糸球体濾過量(eGFR)が 60 mL/分/1.73㎡ 未満である
CKDという言葉に込められた意味
2002年以前は腎機能低下や慢性腎不全と呼ばれていました。腎不全では進行してしまった印象を与えることから、早期から意識してもらうことを目的にCKDとキャッチ―な(?)呼び名が使われるようになりました。進行すると人工透析や腎移植が必要となる末期腎不全(ESKD)のみならず、CKDのある方には心筋梗塞・脳卒中などのリスクが高いという点も重要で、危険因子をまとめて意識してもらいましょうという意味合いもあります。
高齢社会とともにCKDは増加しました
フィルターが劣化するとエアコンも働きが落ちてしまいます。腎臓は生まれてから働き続けている尿を濾過するフィルターであり、その働きが落ちてしまった方がCKDになります。現代の医学では腎組織をフィルターのように修理することが難しいのが現状です。超高齢社会にとなったことも拍車をかけ、軽症を含めると日本人の5-6人に1人がCKDに該当すると言われています。
CKD=必ず透析や腎移植になる、ではありません
日本人口の割合からはCKDの方は5-6人に1人に対してESKDに至る方は367人に1人ですので、すべてのCKDの方がESKDになるわけではありません。eGFRは、20〜30歳代(80〜90 mL/分/1.73㎡)をピークに、健康な方でも加齢とともに年間およそ -0.5 mL/分/1.73㎡ずつ自然に低下するといわれています。仮に人間の寿命が300年あれば、誰もが加齢だけでeGFRがゼロに近づきESKDになってしまいます。しかし実際には、そこまで人間の寿命は長くありません。ESKDに至ってしまう状態は、一言でいえば”個体の寿命を迎えるよりも先に、腎臓の臓器寿命が尽きてしまう”といえます。
CKDを進行させる要因
いかに腎臓をいたわり100年持たせるかということが重要です。現在の医療水準である程度修正可能な要因そうでない要因があります。
〇ある程度修正が可能な因子:
腎炎(糸球体性、尿細管性間質性)、腎症・ネフローゼ、肥満・メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、腎臓毒性薬剤の長期使用、ミネラル異常(低カリウム血症や高カルシウム血症)、両側水腎症など
〇修正が難しい因子
加齢、先天性、遺伝的素因、2つある腎臓が1つしかない、低出生体重(生まれつき腎臓の組織が少ない)、過去の急性腎障害(急性腎不全)の既往、など
修正が可能な因子について適切に介入していくことが内科医、泌尿器科医の仕事です。
腎臓病(CKDを含む)の治療の原則

健康診断でもCKDを進展させないよう、国を挙げて対策に取り組んでいます。
長期目標:ESKD(透析や腎移植)と心血管イベントを減らす
短期指標:尿蛋白量を減少させる・eGFRの低下スピードを緩やかにする
治療手段:大きく分けて以下の2つのアプローチで治療を行います。
①原因へのアプローチ
検尿異常が続く場合、総合病院での腎生検(入院して腎臓の組織を一部採取)をおすすめすることがあります。慢性腎炎や膠原病・血液疾患などが原因と診断できれば、それぞれに対する治療で寛解状態に維持できることができます。しかし、長時間無治療で腎臓が小さく硬くなってしまってからでは、検査に伴う出血リスクが高くなる上、治療効果も乏しくなりハイリスク・ローリターンな検査になってしまいます。
医師から腎生検を勧められた場合には検討してもらいたいですが、腎生検は4-5日の入院を要し、検査による出血合併症も得る手技ですので、仕事、進学や出産育児などライフイベントと緊急性を吟味してタイミングを計ることが重要です。
② 増悪因子へのアプローチ
腎臓の正常組織は成人以降は新しくは増えず再生はしませんので、腎臓が悪化する過程を抑えるための治療です。
厳格な血圧管理:尿たんぱく陽性の方は高齢であっても原則として130/80mmHg、できれば120/80mmHgを目指します。
肥満を避ける:腎臓が処理すべき仕事量が増え、フィルター機能が傷んでしまいますので腎臓のサイズに合った形でダウンサイジングが望まれます。
適正なボリューム管理:食塩過剰摂取に伴う体液過剰も同様で、腎臓の仕事量を軽減する必要があります。減塩や、利尿薬などを用いての管理が必要です。逆に慢性的な脱水状態にさらされることも腎臓によくありません。
食事療法:血圧が高いケースにおいては減塩食が原則となります。たんぱく制限食は過去は主流でしたが向いている方と向いていない方がいますので現在は一律な指導は行われていません。専門医、管理栄養士の指導を受けましょう。
その他:血管への動脈硬化ダメージとなる喫煙は避けるべきです。高LDLコレステロール血症の治療薬であるスタチン製剤はコレステロールを下げるだけではなく慢性炎症を抑制し血管を保護する働きがあり推奨されています。腎毒性のある薬剤の見直しも必要です。
ガイドライン推奨薬によるCKD 薬物治療

1998年以前にはCKDに有効な薬剤はACE阻害薬しかありませんでした。なお、当時仙台社会保険中央病院の故・田熊淑男先生が1985年に糖尿病による腎障害に有効であることを初めてNew England journalに報告されたそうです。
その時代のCKDの患者さんは厳しいたんぱく質制限食を頑張って、だめなら人工透析という時代でした。しかし近年は複数のガイドライン推奨薬が登場し、若い患者さんの腎炎治療の効果も高くなり、腎機能(eGFR)が長く維持できるようになっています。
CKDに加えてどのような病態があるかで治療薬の組み立ても変わります。ドラゴンクエストやポケットモンスターなどのゲームで相手の弱点を突いて攻撃するようなものです。
現在主に5種類の薬剤に有効なデータがあります。
ACE阻害薬:ACEi、アンギオテンシン受容体拮抗薬:ARB 、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬:MRA、SGLT2阻害薬:SGLT2i、GLP1受容体作動薬:GLP1-RA
①血圧の高いCKD →ACEI/ARB、MRA
②2型糖尿病(とくに肥満合併)のあるCKD →SGLT2i、MRA・GLP1-RAの一部
③尿たんぱく陽性のCKD →ACEI/ARB、MRA、SGLT2i
①~③いずれにも当てはまらない方は薬剤の効果が限定的です。幸い①~③いずれも該当しないタイプのCKDの方は遺伝性疾患などは除いて進行がゆっくりなことが多く、予後は良好な(=あまりCKDが進行しない)ケースが多いです。特に③については、検診で尿蛋白陽性を指摘されていても受診できていない方や、採血は受けていても検尿は久しく行っていない方がいらっしゃる可能性があります。これらの治療の適応対象であった場合に治療のタイミングを逸することは大きな損失です。かかりつけの先生と相談してみてください。

年齢を重ねるとともに、下部尿路症状に悩む方が増えます。
女性は過活動膀胱(頻尿)や膀胱炎を繰り返すことが増えてきます。
男性はやや複雑で前立腺肥大症をベースとして、夜間頻尿や逆に尿閉(尿が出にくくなる)などのトラブルを生じやすくなります。また、男性特有の感染症として前立腺に細菌感染症を生じる急性前立腺炎を発症する方もいます。
直接生命に影響することはありませんが、夜間不眠など日常生活の質を下げてしまい、重症度の高い方は自己導尿や尿道カテーテルが常時必要になるかたもいらっしゃいます。
基本的には泌尿器科の守備範囲でありますが、エコー検査なども参考にして、可能な初期治療は行っています。気になる方は遠慮なくご相談ください。対応が難しいケースは専門である泌尿器科への紹介を行います。

男性の方はお年を取ってくると排尿障害を訴える方が多くなります。
良性の病気である前立腺肥大症がその原因として多いのですが、悪性腫瘍である前立腺がんも想定しながら診療が必要です。
前立腺肥大症
尿道の周りにある前立腺が過形成という組織変化で大きくなってしまう良性の病気です。がんのように他の臓器に転移することはありませんが、尿道に近い内腺に生じやすく、尿道が圧迫されることで様々な症状を引き起こします。
<症状>
尿が出にくい、少しずつしか出ない、トイレが近い(頻尿)などの男性下部尿路症状が多彩です。ひどくなると尿閉といって全く尿が出なくなり、行き場を失った尿が膀胱や腎臓に逆流し、急性腎不全を起こして救急受診される方もいらっしゃいます。
<検査>
国際前立腺症状スコア(I-PSS)・QOL スコアを用いた問診表でのスコアリングや、超音波検査で診断します。症状があれば、まずはお薬による治療を行います。
<治療>
お薬の治療で効果が不十分な場合や、初診の時点で前立腺が非常に大きい、あるいは血液検査で前立腺特異抗原(PSA)が高値の場合には前立腺がんの鑑別のため泌尿器科へご紹介します。
泌尿器科で内服薬での治療が難しいと判断された場合には、尿道から内視鏡を入れてレーザーで大きくなった部分を取り除く手術が一般的です。

前立腺癌
前立腺の細胞が悪性化(がん化)したもので、放っておくと周囲の組織に広がったり、別の臓器に転移したりする恐れがあります。
<症状>
前立腺肥大に比べて尿道から離れた外腺にできやすく(75%)、無症状なこともあります。超音波検査などで前立腺が大きくなっている方には、血液検査でPSAを調べ、高ければ泌尿器科の専門医をご紹介しています。
<検査>
PSAは前立腺がんの発見に非常に役立つ血液検査で、特異性に優れた腫瘍マーカーです。基準値は一般的に4.0 ng/mL以下とされており、この数値を超えているとがんの疑いがあるため、泌尿器科で次のステップの詳しい検査(MRI検査や組織検査)に進む大切な目安となります。
<治療>
泌尿器科では手術支援ロボットを用いた手術が盛んに行われています。早期の局所にとどまっているケースでは、密封小線源療法などの局所治療(フォーカルセラピー)が行われることもあります。再発例や進行例では、病態に応じて男性ホルモンを抑える内分泌療法や放射線療法が行われます。
〇PSA解釈のポイント:急性前立腺炎でも高くなることがあります
PSAは、細菌感染症で前立腺が腫れあがって血流が増えている状態でも上昇します。この場合は感染が落ち着いた段階で再度評価が必要です。 逆に急性前立腺炎を起こしている患者さんはPSAが著増していることがあり(20~40ng/mL)、熱源がはっきりしない中高年男性の発熱をみたときに、急性前立腺炎の診断の手がかりになります。
PSAの値は自転車に長時間乗るなどの刺激でも一時的に上昇することがあるなど影響を受けるそうで、解釈には注意が必要です。